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東学党事件の全体像をおよそ把握した報告のように思えるが、如何せん、被告等の供述や法務衙門の判決宣告文をそのまま事件経緯の事実として記述としており、その追究の甘さに少々首を傾げたくなる報告でもある。
尤も、内田としては領事という地位もあって、その接する情報の範囲は限られていたろうからまあ無理もない。それというのもこの頃、情報漏洩が問題となり陸奥外務から度々注意があっている。井上が国王・王妃に内謁見した様子が京城の「日々新聞」に２度にわたって掲載され、どうやら日本公使館から情報が漏れていたらしいのだ。よって以後相当厳しい情報管制が執られたようである。（「朝鮮国王及諸大臣ニ内政改革ヲ勧告ノ件／２１
１８９４〔明治２７〕年１２月１０日から明治２８年１月１７」p24～p27）
しかも、この事件は大院君・李埈鎔の隠謀が絡み合ったものであり、当時としてはその扱いに気を付けねばならないものでもあった。
まず、朝鮮の王族による、しかも朝鮮国王を補佐する国王の父大院君と、京城統営という軍のトップであり大院君の孫である李埈鎔による教唆扇動があって、それが東学党の乱に影響していることが確実なこととして日本人一般に知られた場合、
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・ 乱によって殺害された日本人民間人は少なくない数である。当然のこととして王族すなわち朝鮮という王制国家の全面的責任となり、その処罰と賠償を求めることになる。当時の朝鮮財政は最悪であり、それでなくとも改革の為めに莫大な資金が必要な時期であり、また国父に当る人を罰するよう要求すれば新たな大乱の火種となるだろう。 ・ 国家の命運を掛けた戦争の真最中である。軍事同盟を結び、朝鮮政府の依頼を受けて乱の鎮圧をしている日本軍を、一方で乱によって殺害しようとする朝鮮王族のこのような裏切り行為を、果して日本世論が寛恕できようか。 ・ 清国の朝鮮支配を打ち砕き、その独立を助けんという「所謂、弱を扶け強を抑ゆるの義侠論に外ならざりき」日本世論が、王族のこの迷妄を見て、逆に朝鮮に鉄槌を加えよとの論に一気に傾かないか。 |
というような点が問題となってくるが、これはどう見てもまずいでしょ（笑）
日本政府としては国民期待の、つまりは、日清戦争に勝利し、朝鮮の内政改革に成果を挙げ、圧政に苦しんで乱を起した民を鎮撫しつつ乱にも苦しむ良民を救い、以てその義侠論を完成するという路線を進めていたのが根底から覆ることになりかねない。
まあ、大院君・李埈鎔と東学党の関係は伏せて置きたかったのではなかろうか。実際随分と実害が出ているのに、井上は国王、大院君、李埈鎔の一片の謝罪の言葉で不問にしているのだから。
だが、事実は事実として記録されねばならない。その点、明治２８年５月１０日付の井上馨公使から陸奥外務宛ての報告「大院君、李埈鎔の隠謀に関する顛末」は内田領事の具報より遥かにシビアである。（「朝鮮国王及諸大臣ニ内政改革ヲ勧告ノ件／２８ １８９５〔明治２８〕年４月８日から明治２８年６月１５日」p23）
それでも内田領事の具報が貴重なのは、以下のように関連資料が添付されていることにある。
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添付資料は、
東学党に宛てた国王名の密書１通、 東学党接主とその部下が書いた書類３通、 鎮撫使日誌抜粋１通（以下では略す）、 隠謀関係者として逮捕された者の始末書、そして関係者４人の調書である。
以下適当に抜粋して添付し、またテキスト化した。
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自大内有道教送召募使李建永到之辺同義而此説泄於倭 則禍及玉体慎々秘密 |
国王名を以て、王の恩を蒙る民にと呼びかけ、王家国家の危機を訴える密書。全羅道の東学党接主全琫準自筆の添書きがあり、各地の東学党接主への廻文としたらしい。
かつて国王から邪教扱いされて布教禁止を言渡されていた東学党である。これに応じて起てば義挙の誉となる。
なお、密書を齎した密使の一人李容鎬の調書（後述）によれば、密書にはいずれも国王の印が押されていたという。これは統営使というポストにある李埈鎔ではなし得ないことである。当時、政府決議を受けて国王裁可を求める事が出来るのは唯一大院君であった。つまり国王印押しまくり（笑）の地位に居るのはこの人だけ。勿論この人の常として、こんなやばい手紙を自筆するはずもなく（笑）、よって孫の李埈鎔による代筆である。と言うか多分共同作業。で、国王はというと、井上全権公使に「この頃自分の名で偽の勅令が出回っているみたい」などと暢気なことを言っている。
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| （前頁左と右頁） 「・・・弟等下来時言達雲峴宮与清兵合勢尽滅倭賊云則快然而可也忽慮而処之共起速成大功伏祝々々雖無法所之分付儕軰相従者幾万名不幾日湖中都会相応相合図成大功期於議会矣忽慮速成」 （欄外「雲峴宮は大院君なり」） ［右は東学党の接主張斗在より接主金徳明、金開南及び孫化中に宛たる廻章にして、大院君の意を受け、清兵に勢を合せ日本兵を討滅する為め挙兵を計りたるものなり］ |
「大院君が言うのに、清兵と勢いを併せて倭賊（日本軍）を滅ぼし尽くせ」と。で、接主張斗在は「従う仲間が何万人あるか又それが何時になるかはまだ分らないが、ともかく計画するべきである」と。
接主という東学党役員同士内での連絡である。やる気満々で功に逸っているのが窺われる。
| 「・・・日昨自雲邊有暁諭文二人下来而非不疑惑然係是所重故取姑議撤罷都所出望魯於果然昨暮又有二員秘密下来而詳知顛末則果是圧於開化辺先発暁諭而従後有秘奇也・・・」 「甲午菊月初六、接弟宋憙玉 再拝」 ［右は全琫準の親戚にして且其部下たりし宋憙玉より党員に宛たる書簡にして、此度大院君より密旨ありたるに付、速に挙兵せんとの意を述べたるものなり］ |
「甲午菊月初六」とは日本歴では明治２７年１０月４日となる。
この頃大院君は東学党に対して、表向きでは説諭文を作って鎮撫使を派遣し、裏では政府役人（内務衙門主事と議政府主事）に採り立てた元東学党巨魁を同行させて扇動していたが、その様子を東学党側から見た資料ということで興味深い。
「最初は大院君名義の鎮撫使に当惑したが、その日の暮れに２人の密使が来てその真意を伝えて詳細を知り、つまりは開化党の連中を黙らせるために説諭使を先に行かせ、その後から密使によって指示するという奇策であった」との記述がある。
さすがは大院君、このような奇計は策湧くが如しである。また、この密使２人がその元東学党巨魁なのかもしれない。
全体としては大院君の意を受けて速かに挙兵せんとの連絡であるが、再乱が本格化するのはこの１０月になってからであり、大院君の呼び掛けに応じて乱を起そうとする東学党内の連絡書簡と断定できる。
さて、上記に名が出てくる東学員首魁たちの中で乱を起して捕獲された者は全琫準、金徳明、孫化中であり、何れも後に死刑判決を受けた。これらの者の判決宣告書には大院君、李埈鎔の教唆云々の記述はない。それはそうだろう。当時法務衙門が大院君の威権をいかに恐れていたかは次の具報での内田領事の言葉で推し量れる。
「本件は当国顕要の人々に関係あるを以て、其筋の官吏は之が審理に与ることを忌避し、当初法務大臣自ら主任と為りて訊問を行いたるも、一両回会審の後は病と称して出廷せず。其他の官吏も亦一両回毎に更に其任を辞し、之が為め取調上不便少なからざりし」と。
次は東学党に密書を取次いだ李秉輝なる者が提出した始末書より。この人は明治１５年朝鮮事変の時に尹雄烈と共に日本に逃れた別技軍士官兼教練書記官の、あの李秉輝であろうか。
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| （上）李秉輝より差出したる始末書 「・・・招合東徒因大院君命令而吾則駐公州与任箕準徐長玉做事朴世綱往全州与全鳳俊宋憙玉做事現集幾十万人而李台有書催促出而示之果是李筆而有数十万人不日上送之語矣・・・」 （欄外） |
朴東鎮の話しとして、大院君の命令により東徒を糾合すること、東鎮は公州に於て東学党巨魁任箕準と徐長玉に、朴世綱は全州に於いて東学党巨魁全琫準と宋憙玉に、それぞれ接触して数十万人を集めるように指示しと、忠清道と全羅道への工作についてなどを述べている。
なお欄外にはこの密使２人の運命が書かれている。時期としては陽暦１１月初旬であるから、井上全権公使の追究に、李埈鎔はついに東学党教唆を認め、大院君は「孫は部下に惑わされたのであり、また自分は関係ない」と言っていた頃である。大院君が口封じを命じたに間違いないだろう。この頃井上馨曰く「大院君は人を殺すのを大根を切るぐらいにしか思っていない人である」と。
| 「主上為上王廃妃中殿世子迎李埈鎔即宝位尽戮開化党方是自主之政」 「右は法務衙門に於て李秉輝取調中同人が見聞したることを書認め差出したるものなり」 |
主上が、王妃廃妃と李埈鎔を世子とし開化党を全て殺害するという独自の政治をすると。これは以下の調書によれば、鄭寅徳より書状を受け取った時に聞いたもの。まさに王族内部での大隠謀と。
また、「鄭亦曰万人首李容九即性山之薦云々」と、後に一進会設立に関わる李容九の名がある。許燁も彼を万人の首領として推薦したと。
さて、以下の調書記録は、李秉輝（無罪放免）、許燁（流刑十五年）、李容鎬（未決大赦放免）、宋廷變（未決大赦放免）についてのものである。
訊問は内田定槌領事。なお調書内に「［此時第四号証を示す］」などとあるのが、どの書類を指すのかは不明。また（）は筆者。
| 明治二十七年十一月四日法務衙門に於て李秉輝取調筆記抜抄
前略 領事 其方は東学党の一人なりとのことなるが如何。 李 然らず。 領事 然しながら京城の或人より書翰を東学党の処に持ち行きしとのことなるが、夫に相違なきか。 李 夫れに相違なし。 領事 書状を取次ぎしは何回なりしや。 李 二回なるも、一度は自分が持ち行き、其返事三通を受取りしも、一度持ち行かずして警務使に其侭渡したるなり。 領事 最初書状の請取りしは何日頃なるや。 李 朝暦八月十三日に手紙を頼まれ十六日先方に伝えしなり。 領事 何人に頼まれ何人の処に渡したるか。 李 鄭寅徳なる者より頼まれ、朴東鎮なる者に渡せしなり。 領事 鄭寅徳なるものは東学党の一人なるや。 李 東学党なるや否は知れざるも、京城に来り居りソンビノ行（意味不明、何かの修行だろうか）をなし居るものなり。 領事 書状を頼むとき何と云いしや。 李 夫れは鄭より頼まれたるにあらず。自分が山訟のことに付、許燁に依頼し鄭寅徳の書状を貰い行きたるなり。 領事 朴東鎮なるものは東学党なるや。 李 東学党にて已に捕盗庁に捉われたるものなり。 領事 其書状中には如何なることが認めありしや。 李 其文中には山訟のことが少し認めあり、尚此方より申遣せしことは如何なりしか速に上京すべし、とのみ認めありたり。 領事 其書状中のことを其方は如何して見たるや。 李 朴東鎮が私に示したる故知り得たり。 領事 一昨日、法務大臣の取調の当時、東学党数十万を引連れ京城に来るべしと書状中に認めありしとの事なるが、夫れに相違なきか。 李 相違なし。 領事 東徒数十万を引連れ来るべしと申送りしは何人より命じたることなるや。 李 鄭徳寅の書状なるも李埈鎔参判の命を伝うるものなり。 領事 鄭徳寅の認めし書状は東徒が引連れ来れとの李参判の命を伝うるなるか確め置かん。 李 夫等の事を認めし書面は私の持行きし書状中にはなく、已に朴東鎮の方へ送りし書状中に認めありたるものを朴東鎮より私に示したるなり。此書状は李埈鎔の親筆にて朴東鎮の弟某が上京して貰い行きたるものなり。 領事 拙者が聞きたきは、其方が鄭より受取、朴東鎮方に持ち行きし書状のことを聞きたし。 李 私の持ち行きし手紙は先きの方は巻きありて其片端に書しある処を朴東鎮が示したる処を見しに、所営のことは如何なりしか速々上京すべしと認めありし故、所営とは何事かと問いしに、曩に李埈鎔より送りたる書状を示したり。 領事 其方が第二に見たるものは李埈鎔の自筆に相違なきや。 李 相違なし。親筆なり。 領事 其方は予め李埈鎔の筆蹟を承知し居るものなるか。 李 夫れは平日李埈鎔の書を見て居ります故承知し居ります。 領事 其状中には如何なることが認めありしか。詳かに申立つべし。 李 東徒数十万名不日■■して即上来すべしとの文意なりし。 領事 此書状は何人に送りしものなるや。 李 朴東鎮に送りしものなり。此者は大院君より役など云い付けられしものなり。即ち本朝歴七月中、役を命ぜられ東学党鎮撫の為に行きたるは名義上のみにて、其実は東学党を集めて上京せしむる手段なり。［役は主事、何にの官衙なるか知れず］ 領事 朴東鎮が主事として宣撫使に随行したるも其実、東徒を扇動する為に行きしは其方何によりて知りしか。 李 夫れは東徒を数十万連れ来れと命じられ、又行くとの答をなしたるにより、宣撫の為に行きたるにはあらず。扇動の為なりしことを知りたり。 領事 夫より其方は朴東鎮より返事を受取帰京せしか。 李 手紙三通即返事を持ち帰りました。 領事 其手紙は何人に送るものなるや。 李 一は李埈鎔、一は鄭寅徳、一は許燁に送るものなりし。 領事 其手紙中には何事が認めありしや。 李 李参判に宛たる手紙を見たるに「■■便に下されました書状は確かに拝見致しました。先日御下命のことは三十万余名を引連れ、二十五、六日中に上京する故、其前に於て、日本兵の動くことがありては容易ならざる次第故、詳細其事状を御通知ありたし」との文意なりし。其日付は八月十七日なり。 領事 他の書状中には如何なることが認めありしや。 李 鄭寅徳への返事には李埈鎔への書状と大同小異にして、其上に京城の事は李台朴令と相談して石庭の内事を細かに知らせよ、とのことなりし。 領事 一昨日取調の時、一通の書状は松亭に送るものなりとのことなり。■■■■■■一人にて矢張李埈鎔■ことなるや。 李 同じく李埈鎔のことなり。 領事 李埈鎔より朴■■に送りし手紙の日付を承知し居るや。 李 覚え居りません。 領事 今迄取調べたるは其方が最初に依頼をしたる手紙のことなるが、第二回目に頼まれたる手紙には如何なることが認めありしや。 李 二度目の手紙は鄭寅徳より朴東鎮に送る手紙なり。 領事 其手紙には如何なることが認めありしや。 李 其手紙は警務使に出だせし故、見ませんでした。然し其事柄を聞及びたることはあります。 領事 其聞及びたる事柄を申立よ。 李 鄭寅徳より書状を請取るとき同人より聞く処によれば、此手紙は東徒の上京するもの十々万名のみにては不足故、速に沢山のものを上京せしむべし。日兵下去の事は大院君に於て頻りに止むる方に尽力中なるも、若し日兵其地に行くことにならば東徒は速かに解散をなし、十一月、十二月の頃になれば、河の氷結を俟って支那兵の来る都合なれば、協力して日兵を撃ち掃い、政■を掃除して新主を立ん［此とき新主とは何にかとの問をなしたるに、之れは謹むべき次第なれば明かに申立つること能わず］んとの文意なる趣を聞きたり。 領事 李埈鎔と東学党と其他にも往復したる書状等のことを聞及びしことはなきか。 李 其他に八月二十四日に李埈鎔の手紙と鄭寅徳の手紙とを林璡珠をして朴東鎮に送らしめたり。其手紙を自分が見たる訳にあらざるも、鄭寅徳と許燁に聞きたるには、日兵、京兵と共に下るときは事困難なれば速に晦日以前に上京せしむべしの意なりし。 領事 其他に東徒と書状の往復のことは承知し居らざるや。 李 最初に朴東鎮が自分の弟をして李埈鎔に書状を送りたりとの事なるが、其事柄は見も聞きも致しませなんだが、其後に至り朴東鎮より聞きしに、最初朴東鎮が宣撫使と共に公州地方に出張する前李埈鎔が命ずるには、公州地方に行き東学党は何程位集まり得べきか取調べ来れとのことなりしかば、公州地方に行きたる後、命ぜられたる事柄は大略出来得るとの事を申送りたるものなりと云う。 領事 最早其他には李参判等と東徒との往復はなきや。 李 其他には存じません。 領事 朴東鎮が自分の弟をして李参判に送らしめたりと云う書状の日付は存じ居らざるや。 李 私は存じ居らざるも、七月（朝歴）末のことなりと鄭寅徳より聞き及びたり。 領事 其方が此処に捕われたるは大院君の命なりとの事なるが、相違なきや。 李 大院君の命なり。 領事 如何なる罪を犯して捕われしや。 李 夫れは私に於て存じません。 領事 其方が此処に捕われし以来、大院君より申含めるには、審問を受くるに当り何にも知らぬと申立て居るべし。然るときは汝に何にか役を与うる杯の事を申越したりとのことなるが、左様のことあるや。 李 初め私が此獄に入らしめられたるは大院君の命なるも、何か罪のあることかと存じ、伺を出したるに、其返事はなかりしも、九月四日の日に此役所の主事が私を招き、汝は何の罪あるかと問われし故、自分は知らずと答いしに、許燁とは関係あるならんとの問いなりしかば、私は許燁とは山訟のことに付、彼是往復したることあり。又許燁より貰い受けたる書状を警務使に疑われし廉ありしものを差出せしこともありたりと申立たり。其時主事の云うには、大院君が汝を愛し居らることなれば、捕庁にも送らず、此法務衙門に留置せしめ置かるゝ次第なれば、口より出任せに真実の申立をなさず、京城にある人の関係のことは一も申立てず、田舎の人のみの関係を申立ぬ（る）様にすべしと。又書記が申すには、李駿弼が総て主謀者なりとの申立をなすべし。然るときは、自分の身が助かるのみならず、相当の役にも取立てらるべしとのことを申されたり。 領事 其主事とは何人なるや。 李 其姓名は存じません。顔は覚え居ります。其時主事は大院君の命令なりとのことをも申したれば、私に於ては其名は聞取らざりしなり。其時主事に向て私は総て関係の人名を申立てたると、李泰容、朴準陽の事に及びしときは主事は紙と筆を打捨て、如此ことは認むること出来ぬと申されたり。依て私が書すべしと打捨てたる筆を拾い認めたる次第なり。其場には書記も立会い居りたれば、此両人の怒り甚しく、其夜中にも害せらるゝやの様子なりしが、自分は其侭獄中に入りたり。然しながら彼等の怒り甚だしき故、彼等の様子を窺わんと考え、再び獄より出て主事に面会し、先刻、李泰容、朴準陽のことを申立てしも、自分の見たるものにあらず。只鄭寅徳より聞及びたる次第なれば、筆記書より削られては如何との事を申入たり。此時両名の主事、書記は大に喜び、夫れ故先刻我々が書せる訳柄なり。早速筆記書より削るべしとの事を申したり。 |
上記始末書に沿った内容である。しかしまあ大院君側の命令は、やれ数１０万連れて来いだの、また東学党の返事も３０万余名で行くだの、だいたい無理だっつーの（笑） 後に全琫準ですら集めたのが最初４千人、であちこち回ってやっと１万、それもすぐに１３０名ほどの日本軍１中隊に蹴散らされてしまうことになる。また烏合の衆はどれだけ集めようとも矢張り烏合の衆。掠奪には熱心だったらしいが。
なおここで名が出てくる、李泰容、朴準陽は後に賊盗律謀反罪で絞殺刑の処を減刑して終身流刑に、また林璡珠は流刑１５年、また李駿弼とは、朴泳孝の使いと称して玉璽を押した白紙を国王に見せて迫ったとして、大院君の命令により既に絞殺刑に処せられた者である。
次は許燁。しかし許燁は訊問にあまり応じず殆ど李秉輝が代わりに答えている。
| 明治二十七年十一月七日、法務衙門に於て許燁取調筆記抜抄
前略 領事 此許燁を知れりや。 李 知り居ります。 領事 友人なるや。 李 親友なり。 領事 何つ頃懇意になりしや。 李 三年間程なり。 領事 李の申立に相違なきや。 許 李の申立に相違なし。 領事 許燁の事績は知り居るならん。 李 知り居ります。 領事 星山とは許燁の号なりと云うことも承知し居るや。 李 許燁の別号なり。 領事 此書は許燁の自書せしものなるや［此時第四号証を示す］ 李 許燁の筆蹟なり。 領事 此書は如何［此時第五号証を示す］ 李 之れも許燁の筆蹟なり。 領事 只今、李秉輝の申立によれば此書状は汝の筆蹟に相違なき旨、申述ぶるも夫々相違なきや［第四号証］ 許 私の認めしものなり。 領事 此書状は如何［此時第五号証を示す］ 許 私の認めしものなり。 領事 其方の手紙の中に大老丈と認めあるは何人のことなるや。 許 大院君の事なり。 領事 昨日汝の申立には、汝は東学党のことに関係なしとのことなりしが、此手紙によれば東学党のことも周旋し居るにあらずや。 許 決して東学党に関係せしにあらず。其手紙の旨趣は已に東学党を征伐に行く兵ある故、夫に就き東学党は何時頃京城に来るか別に其状況を聞くの必要ありて、朴東鎮に問合せたる書面なり。東学党に関係せし書状にはあらず。 領事 汝の書状二通とも其意味なるや。 許 二通とも意味は同様なり。 領事 二通とも朴東鎮に聞合せたる書なりや。 許 一通は朴東鎮、一通は金明鎬に送りしものなり。 領事 一通は八月二十五日、一通は八月二十六日なるが、何れが朴東鎮に、何れが金明鎬に送りしものなるや。 許 書面を■見すれば分ります。 領事 兎に角、二通とも悪事をなさんとして認めし書状にはあらずや。 許 二通とも■兵と共に東学を征伐せんとの意より出でたる書状なり。然しながら東学党は屡々人の書面を奪い見るとの事故、之を防がんとして累々右様の書面を認めし次第なり。尚又東学を伐つ為に計画せしとき自作の詩迄あります。 領事 此の如く認め置けば何人が見るも差支なしと考認め置きしものなるや。 許 朴東鎮が東学党の処に行き居れば、自分の真意を認め遣わさば、東学党の為めに東鎮の害せられんことを慮り、差支を生せざる様に認し次第なり。 領事 汝の申立は虚言なり。書状の末文に■後付丙と認めあるにあらずや。若し差支なき書状なれば、如此ことを認め置く筈なし。 許、曖昧の申立をなし、許は「然らず」と答う。 領事 （李秉輝に向い）其方は此許燁と親友なれば、許燁のことを申立つるに不本意ならんが、此事は国家の大事なれば有体に許燁に関係あることを申立つべし。 李 必ず真実を申立ます。私が誓う所なり。 領事 其方は此処に捕われし以来、許燁より手紙を受取りしことはなきや。 李 其事あり。 領事 幾度手紙を受取りしや。 李 一度なり。 領事 夫は何日頃なるや。 李 日は覚えず。 領事 今日より幾日程以前なるや。 李 二十日も以前のことなり。 領事 其手紙の中には何と認めありしや。 李 初め私より許燁に書状を遣りし其書状は、予て親友故互に捕われの身となりし故、慰むる為のことなり。其返事の中に、警務使より訊問を受けたるとき李秉輝の山訟のことに付、鄭寅徳より手紙を貰い李秉輝に渡したること及、自分が朴東鎮に送りし書状は義兵と共に東学を伐つ為めに送りし書状なる旨申立て置きたる丈けなりと私に申越したり。 領事 許燁より送り越せし書面の中に相互に何にも申立ざる様にすべしと申遣わせしことはなきや。 李 然ることなし。 領事 許燁が東学と如何なる関係あるや親友のことなれば承知し居るべし。詳かに申立つべし。 李 東学党に関係せしことは承知し居らざるも、朴東鎮に手紙を貰い呉れたる等のこと、及彼と互に書状の往復をなしたることは承知し居ります。 領事 如何なること之往復なるや。 李 往復のことは山訟のこともあり、第一許燁より手紙を遣せしことなれば、其書状を御一覧あれば分ることなり。 領事 （許燁に向い）此れは誰に宛てたる手紙なりや［此時第六号証を示す］ 許 朴東鎮に送りし書面なり。 領事 （李秉輝に向い）朴東鎮と許燁との間に如何なる関係あるや。 李 夫れは私には分りません。 領事 其方が此間許燁の処より、取調の際何にも云うことはなかれ、と申越したることありと申立たるが、夫は間違なりしや。 李 夫は公然と申したることにあらず。自分も警務使が取調たるも■々のことを申立たる迄なり。御前も如此せよと許燁が自分に話したる次第なり。 領事 其方は警務使に向て申立たる許燁の陳供は充分にあらずして他にも関係の事柄ある■ならん。 李 第一私に下りて■■朴東鎮の返事を持ち来りし三通の書状即ち許燁、松亭、鄭寅徳とに宛てたる書状を許燁が受取りし後は、必ず内情を知らざる筈なし。時に私に書状を東鎮の処に持ち行くとき、此内情を知り居ると云うことを云わず、山訟の事は容易に■むべしと申したることあり。 領事 其内情とは何事なるや。 李 李埈鎔、鄭寅徳、朴東鎮等が東学党を集むることに付ての内情なり。 領事 許燁は何故内情を知り居ると其方は申すのか。 李 朴東鎮より鄭寅徳に送りし書状も許燁は見たることあり。鄭寅徳も許燁に話せしことあれば、知らざる筈なし。 領事 鄭寅徳が許燁に話たることを何故其方は知り居るや。 李 夫は傍らに聞き居りし故存じ居ります。 領事 寅徳は許燁に如何なる話をなし居りしや。 李 寅徳が早く東学党を呼び処することをなさとるべからずと、許燁に話居りたり。其時自分も傍に聞き居りしなり。 領事 許燁は何と返事をなせしや。 李 夫は早く呼び寄せねばならぬと申し居りたり。 領事 此話は何処にてなしたることか。 李 寅徳の宅なり。 領事 何日のことなるや。 李 八月二十日過ぎのことなり。 領事 此書は何の書状なりと思うか［此時五号証を示す］ 李 私には分りません。其目的は如何なるや許燁が相談せしことあられば知れず。 領事 金明鎬は知り居るや。 李 一度面会せしなり。 領事 何れのものなるや。 李 慶尚道のものなり。議政府主事なりと思います。 領事 其方は二度目に鄭寅徳の書状を受取、警務使に差出したるは何時頃なるや。 李 夫は八月二十六日の事なり。 領事 夫は一通なるや。 李 封中に尚一通ありと思います。 領事 別封あることを如何にして知りしや。 李 いじり見て承知せり。 |
許燁のトンデモ言い訳（笑） 東学党に襲われてもよいように東学党に味方する手紙を書いたというのである。いやはや何とも。また、ここで名が出て来る金明鎬も後に許燁同様、賊盗律謀反罪で流刑１５年に処された。
次は大院君密使の一人李容鎬の調書。
| 二十七年十二月五日李容鎬取調筆記抜抄
前略 領事 田舎とは何れに行く積りなるや。 李 私は私の家に、宋は宋の家にの積りなり。 領事 各自の家は何れなるや。 李 私は報恩、宋は清州なり。 領事 其方と宋廷變は何時も田舎に行くか。 李 宋も東徒の為に家族を逐われ自分の家も害を受け居るとの事故、其状況を見■■共に田舎に行く者■り。 領事 八月十七日之日に宋廷變に会せし何■■■■■たるか。 李 夫は十七日の■■■■■私の宅前に出立せんと申来りし故行きたるなり。 領事 夫は朝何時頃なるや。 李 十時頃ならん。 領事 宋廷變が宅門前に田舎に行かんと云うて来りし後如何せしか。 李 夫れから共に田舎に行きたり。 領事 漢江は何れより渡りしか。 李 西氷庫なり。 領事 途中何れにも立寄らざりしか。 李 なし。 領事 西氷庫迄は其方宅より同行せしか。 李 然り。 領事 誰か同行せしや。 李 宋と私の下人各一人なり。 領事 其方の下人の名は。 李 近所の人を一時雇たること故、姓名は分らず。 領事 近所の人にてもあり且其方が雇入たるものなれば姓名の知らざる筈なし。 李 自分は荷物も格別なく宋の下人に頼む訳にもならざれば一時雇故姓名を知らず。 領事 其下人を何れ迄連れ行きしや。 李 鳥山洞迄なり。 領事 八月十七日には何れに泊せしか。 李 達利乃店なり。 領事 何時頃同所に着せしや。 李 夕方なり。 領事 翌日は如何せしや。 李 翌日は水源鳥山洞迄来りたり。 領事 宋廷變と別れしは何れなるや。 李 天安なり。 領事 其方は天安より何れに、宋は何れに。 李 宋は清州に、自分は報恩に行く為、同所にて分れしなり。 領事 同行中、後日何れにてか会わんと約束せしことなきや。 李 なし。 領事 京城に帰て自分の帰京を待てと約束せしことなきや。 李 なし。 領事 国王の命令なりと三通の密諭を宋に渡せしは何れなるや。 李 達利乃店なり。 領事 其手紙は其方自分が持ち居りしか。下人が持ち居りしか。 李 夫は京城にて約束するのに林璡珠に達利乃にて合わんとのことにて同所にて同人より受取しなり。 領事 林璡珠と京城より行きしか。 李 左様。 領事 其方より林璡珠は後か前に行き居りしか。 李 夫は知らず。 領事 其方は同一の宿に泊せしものが、後か前きかが知れざる筈なし。 李 夫は前に行きしに相違なし。 領事 其手紙が林璡珠より受取りしは其晩か翌日か。 李 夕方受取たり。林璡珠が之を宋廷變に渡せと云う故、御前が渡せよと云うくいたるも、林は御前が懇意なれば渡されよと云う故、自分より渡せしなり。 領事 宋に渡せしは何時か。 李 其晩に直に渡せり。 領事 何と云って渡せしか。 李 何事も言わず。開封すれば分ることなればなり。 領事 然らば宋廷變は何と云うて受取りしや。 李 密諭か、如此なれば仕方なしと云うて受取たり。 領事 其書状の密諭なりと云うことは其方も知り居りしか。 李 然り。 領事 国王の密諭の大切なるものを渡すとき無言にて渡すとは何事なるや。 李 夫れは宿屋でもあり、開封すれば分ること故申述べず。 領事 渡すとき室に誰か居りしか。 李 誰も居らず。 領事 居らざるなれば其話をなすも宜しからん。 李 下人が居れり。 領事 下人とは。 李 林と宋の下人居れり。 領事 宋林等の下人居る処にて其方が大切の書状を渡すと云う訳はなからん。 李 然し事実夫れに相違なければなり。 領事 其手紙を其方が林璡珠より請取りしは矢張其室なるか。 李 然り。 領事 其方は林璡珠より受取し上表書を見たる上渡せしか。 李 夫れは封してある故見ません。 領事 受取し侭少しも見ざりしか。 李 然り。 領事 表書を見ざりしか。 李 表書には密諭三度とありし迄なり。 領事 其方が昨日の申立には密諭嶺南大小民とありしとの事なりしが、本日の申立とは異なるは如何。 李 夫れは初め表には密諭三度とあり、後、宋廷變が開き見たるとき昨日申立の如き認めあり。 領事 林璡珠が其方に其書を渡すとき何と云いしか。 李 之れは密諭なれば宋廷變に渡せと申たり。 領事 林璡珠は何の為に其所に来りしか、其方に面会する為めならん。 李 然り。 領事 林璡珠と達利乃にて合うとの約束は何時せしや。 李 八月八日か九日の日に十七日に合わんと約束せり。 領事 会うのは何の為めにか。 李 最初林璡珠と話をなしたるに、日本が我国を改革すると云うけれども、夫れも出来ず、特に朴泳孝を用いんとして居る。斯ることにては我国を改革して呉れると云うにあらず、との疑を起し、嶺南三道に赴き義兵を挙げ、日本を到底討つことは出来ざるも、各国の法もあること故、各国に通知し談判をなさんと云うことを話合いたり。夫のことから田舎に行くことになりたり。 領事 其目的を達する為、其方が如何の手段を用ゆる考なりや。 李 話合の後、林璡珠の云うには国王の密諭を受け来りしと云う故、夫は容易のことにあらざるべしと云いしに、何に容易のことなりと申せり。其後十五日になり、其密諭自分宅に持来せり。之れは田舎に行くに付ては宋廷變にも話す考いなるも、田舎に行く前に話して漏るゝ憂あれば、田舎に行く迄は話さざることにせり。 領事 密諭とは誰のものなるや。 李 国王なり。 領事 如何なる密諭なるや。 李 三南の義兵を挙げんと云う密諭なり。 領事 其義兵を挙げ何にをするものか。 李 各国に照会し日本の失を責んとの考なりし。 領事 各国の援助を得て義兵が日本を攻めんとの考なりしか。 李 各国の法もあれば日本の失を責んと云う考なり。 領事 各国の法あれば兵を用ゆるに及ばざるべし。 李 各国の公法もあらんか承知せざる故第一義兵を挙ぐるが緊要と考い左様致したる訳なり。 領事 其密諭は林璡珠が如何して得たるか。 李 如何して得たるか実際承知せず。 領事 昨日其方申立によるに、国家擾乱の際、東学党討つべしとのことなりと申立しが相違あるは如何。 李 私は左様のことを申立たることなし。初めより密諭が東学党を討てと云うことはあらず。 領事 一昨日申立と相違あるは如何。 李 果して然らば私の申立が間違なり。 領事 現に申立たるに相違なし。何故虚言を吐きたるや。 李 一昨日の調書を見たし。［之を示す。現にあり］ 領事 達利乃店に宿り一泊せし後、林璡珠は如何せしや。 李 其後十月十日頃、林は尚州にて自分と合い、其時言うには日本は全く朝鮮を開明にする者なく、就ては東学党にても討たんと申したり。その後一切面会せず。 領事 其方も林璡珠も田舎に赴きしは義兵を挙ぐるに相違なきや。 李 左様なり。 領事 其方は別に密諭を受け行かざりしや。 李 私も持ち行きたり。林璡珠に尚州にて会いしとき、日本も我国に対し改革を施し呉るゝことなりとの話を聞き、密諭の真偽に疑を抱き火中に投じたり。 領事 夫は何通なりや。 李 二通なり。一、嶺南大小民人、一は負商褓商とありたり。 領事 夫れには何事か認めありしや。 李 同様なり。 領事 夫れは国王の判がありしか。 李 勿論ありたり。 |
で、李容鎬も曖昧且つ虚言を弄しているが、以下の前校理宋宋廷變の供述で、李容鎬が国王の命で平壌にも行っていた時の話が出てくる。
| 二十七年十二月三日法務衙門に於て宋廷變取調筆記抜抄
前略 領事 李容鎬と親しきか。 宋 親しきにはあらず。本年より互に知り合になりたり。 領事 関係せしは何事なるや。 宋 八月十七日に李容鎬が自分宅に来りたり。其時自分は田舎に出立の当日なりし。 領事 何の為に田舎に行くのか。 宋 東徒が多くなりて自分の家内が東西に離散か■と聞き、夫れが為に田舎に行くことになりたり。 領事 李容鎬が何事か云われしや 宋 寒暖の言葉をかわしたる後、話をなしたる迄なり。 領事 その後何事か話したるか。 宋 李容鎬が云うには田舎に君は行くが、君の家は何れなりやと。依て自分は報恩なりと答いたるに、李は自分も田舎に行く積り故同行すべしと申たり。夫より別に西氷庫と云う処にて李と会いたり。 領事 其時何事を話たるや。 宋 （李容鎬は）何事も云わず。只今年は諸方に行くことが多く、平壌にも行き見て来たこともありと申たり。 領事 平壌には何事にて行きたりと云うたか。 宋 清兵を見に往き来りたりと云うたり。 領事 清兵を見に行きたるは自分の好みによるか、但は他人の命により行きたることか。 宋 李容鎬の云う処によれば、国王の命によりたると申し居りたり。 領事 何と云い命令を受け行きたるのか。 宋 国王の命令によれば、南には日本兵があり、西の方には清兵あり。大に心痛のことなれば、清兵が幾何居るや、又後より何程来るか其辺を見て来との命令なり。 領事 然らば李容鎬は国王より親く命令を受けたるものなりや。又他に取次をなしたるものありとの事を聞きしか。 宋 詳かに聞き見たるにあらざるも、李の申す処によれば親く命令を受け来りし如くなりし。 領事 平壌に行きし後は何事をなしたるか。 宋 平壌に行き清人衛汝貴と面会に来りたるとのことなり。 領事 汝貴なるのが何人にも面会するか。 宋 中々面会せざりしも数度請て初めて面会を得たり。 領事 汝貴に面会せしとき如何して話たるか。 宋 筆談をなしたりと申居りました。 領事 汝貴に話したるは何事なるや。 宋 清兵が何人居るか、何の為めに来たのかのことなりし。然るに衛汝貴の答えには貴国にて電報せし故来りたり。依て李は衛汝貴に向い、六月二十一日後は電信は絶たれし故、其電報は真実にあらざるべし、と申したり。然るに汝貴は自分は指揮がありし故来りたりと申したり。 領事 電報は何人か遣わせしものなりや。 宋 夫は貴国大院君の電信なりと汝貴が申したりとて話したり。 領事 電報とは何事なるや。 宋 日兵二十万来り大闕を犯したる故、急に来援を待つとの意なりしと云う。 領事 外の話はなかりしや。 宋 其外話なく平壌より帰り来りたりと申したり。 領事 李容鎬が平壌に行きたるとき閔泳駿、閔炳奭等に面会せしことはなかりしとの事なるか。 宋 此両名には面会したりと話したり。 領事 閔泳駿、閔炳奭に面会したるとき何事を話したるか。 宋 上奏する封書があると閔炳奭が申したりと話したり。 領事 何の上書きありしと李埈鎔が云うたか。 宋 知らずと申したり。 領事 他に李容鎬より話したることなきや。 宋 なし。龍仁に行きたるとき一人の下人あり。李容鎬に封書を渡したり。李容鎬が其手紙を持ち自分に向て室内に入るべしと申したり。夫れより室内にて李が云うには困難の事が君の為めに起りたりと申すに付、何事なりやと問いたるに、国王の命令ありと云うて私に持来り渡したり。即ち之れが国王の命令なりと言うて渡したるなり。依て謹で之を請取り見れば、前校理宋廷變と表書にあり。尚果川に到り、開見やよと認めあり。自分は之を見て国王が、自分の何れの地にあるか分らざるに之の書状を送られず。京に居るものなれば呼出になりたる上、親しく命令ある筈なれば此手紙受取ることは出来ぬと李容鎬に申入たり。然るに李は如此事は自分の利益になることにもあらず、偽造することはあるべきにあらずと申すに付、自分は之を開き見るに密諭前校理宋廷變持此三度密諭当日発程即為致伝上来事とありたり。 領事 三度の書面は何人に伝うるものなるや。 宋 一は沃川宋大臣子にして封書秉璡端に一は連山居故金大臣の孫教官金永吉と、一は魯城居尹進士即ち尹慈臣に伝うるの三通なり。 領事 李容鎬に手紙■■■■■■るものか。 宋 名は興福と云い、姓は劉か楊か兪か何れなるかを知らず。 領事 其下人の姿は如何の体なりしか。 宋 普通の下人にはあらず。 領事 其後李容鎬と汝は同行せしや。 宋 互に別れ李は報恩に行き、自分は清州に赴きたり。 領事 李容鎬は報恩に行きたるのみなるや。 宋 報恩には李容鎬の宅あり。同所に行きたる後、慶尚道に行くとのことなりし。 領事 慶尚道に何の為めに行くと云い居りしや。 宋 矢張此事にて行くと云い居りたり。 領事 其後何れにてか会同せんと約したることなきや。 宋 別に約束はなかりしも、京城に帰り自分の帰るを待つと李が申したり。 領事 三通の密諭は夫々伝達せしや。 宋 其後郷里に帰りしに諸事多忙の為め十四日を経過するも国王の命令とあれば畏れ多き事と存じ、魯城に行き、尹進士を家に訪いたるも、東学党の為に逐われ、家に居らず。依て其親族を尋ねたるに弟一人あるとのこと故、其者を尋ね尹進士に伝うべき書面を渡さんとせり。然るに兄に送らるゝ書状を、私が請取ることは出来ぬと云うて、又此地には東学党の為め居ること能わざれば、一里余を隔つる或寺に行かれよと申たる故、同行せり。一泊の上、翌日出立せんとしたるに東徒が多く集り居るとの事にて出立するを得ず。打過ぎしに東徒が此等に押寄せ来り、寺僧は逃亡し自分は衣服馿馬等、三通の密諭も奪取せられたり。夫より此処を逃て延山に行き、金大臣孫の宅を訪いたるに、此人は八十の老人にてありし。自分が其人に向って実は伝達すべき密諭は東学党の為めに奪われたり。後日国王より下問のときは其次第を申上られたし、と云うたり。沃川の宋大臣宅に行きたるときも同じきことを言い置きたり。 |
大院君が国王名を以って旧大臣の子息ら忠清道の土豪名族に東学党扇動の事を命じていたことに関する供述の一部。供述が真実だとすると結局は密書を渡すことに失敗していることになる（笑）
また、追放されたはずの閔泳駿が平壌に居て清将に保護されていたことが窺われ、その時の清将衛汝貴との問答にも興味深いものがある。
さて、大院君らの命令に応じて乱を起したと言っても、要するに東学党としてはその利害が一致したからということもあろう。
しかしながら、１０月の再蜂起はどことなく悲壮なものが感じられるのであるが。
１０万じゃ足りない、数１０万で京城に来いとか大院君側の要求は過大であり、そんなに集められるはずもないのに、それにこの頃東学党接主らは日本軍の戦闘能力の高さも充分知っていたはずである。平壌に清兵はもういない。いや頼みの清軍は敗走を続けている。それにも拘わらず起つ。負けるは必至と分っていて・・・。それとも東学の経文を唱えれば不死身であるなどと本当に信じていたのだろうか。それとも全琫準が言うように矢張り穀物の実る頃だったからだろうか。筆者としては、全琫準に関しては後述するように、君臣の義を尊ぶ儒家としての全琫準という見方で推測した。
この後金鶴羽暗殺の犯人が逮捕されるなどして一連の事件の全貌が明らかになり、ついに朝鮮政府もこれを不問にするわけにいかなくなる。かと言って国父たる大院君を逮捕するわけにも行かず、結局はもう一人の主謀者である孫の李埈鎔を逮捕して牢に入れる。それで、孫を溺愛する大院君は連行される埈鎔を追い狂気のようになって法務衙門まで押しかけることになる。
以 上
