日清戦争下の日本と朝鮮(9)補足資料

 

 

(朝鮮国王及諸大臣ニ内政改革ヲ勧告ノ件/18 第拾四号 〔清国ヘ親書送付問題並ニ内政改革ニ付韓国王ニ謁見〕〕より文字強調、()は筆者)

第拾四号
十一月二十日公使参内内謁見
 列席諸大臣は如左
総理大臣   金宏集
外務大臣   金允植
度支大臣   魚允中
署理軍務大臣 趙羲淵
工務大臣   徐正淳
法務大臣   洪鐘軒
学務大臣   朴定陽
農商務大臣  厳世永
宮内大臣   李載冕
特に参席を許されたるもの
統営使    李呵O


  本使 
 過日大本営より書面の原書到達せるに付[国王始め大院君の一族より平壌前監司閔丙奭に宛て贈りたる清将来護云々に関する書翰を指す]、金総理大臣、金外務大臣、魚度支大臣と会見の際、之を示したる末、大君主には早速金総理大臣をして事の不都合を謝せられ、大院君も亦公使館に就き、書面の顛末を述べ、其不都合を謝せられたり。本使以為らく該書通のこと事体極めて不条理と認め、謝せらるゝ以上は、爾来清国に隷属する依頼心は全く之を絶ち、専心に独立の基礎を鞏固ならしむる為め、内政改良の実を挙げられざるべからず。扨此内政改良と云うことは頗る困難なる事業にして、大君主の御決心如何にあり。否大君主のみならず、王族諸大臣の決心も同一ならざるべからず。然れば本使が奏言に先ち、主として茲に大君主并に諸大臣の決心従事せらるゝ勇気あるや否や、伺い置かざるを得ず。

大君主
 然り。朕は書簡のことは後悔す。朕は勿論内政改良を為し、熱心に国歩を進捗ならしめんと欲するなり。

本使 
 国歩を進むるとは、即ち独立して歩を移すとの意味なり。是れ目下貴国の状態を察するに数多の困難を冒し、何等の障害に逢うも此中興の業を成就するに当り、一切阻喪せずとの勇気と決心なからざるべからず。

大君主
 然り。

本使 
 大君主の御決心已に然りとあれば、諸大臣の決心は如何。希くは陛下の御目前に於て諸大臣の意見を聞くを得ば幸なり。

 [此時王妃は国王の背後障子の内にあって国王に切りに耳語せらる]瞬間国王は大に憤怒の御気色ありて、

大君主、列席各大臣と一呼し、
 六月廿一日[我本年七月廿三日]以後、朕は殆んど国務上何等の権利を行うを得ず。国政の事、挙げて各大臣の掌管たる処たり。斯て一国の君権なるもの汚損することなきか。又今日朕が政令は殆ど宮門外に行われずと。抑も是れ誰の罪なるか。今や外国使臣をして自国の国政に関して杞憂此極に至らしむるは何ぞや。然れども此席の井上公使は朕是を顧問官視すれば、其我国の為め衷情の此に出るは深く謝すべしと雖も、又顧みて我臣僚の朕が為め其不忠を責めざる可からず。

金総理大臣
 先ず其不敏重任に堪えざるを謝す。
 次で諸大臣皆、惶悚(おそれかしこむ)々々と奏す。

魚度支大臣
 陛下、諸大臣に充分の職権を与え、然ても諸大臣尚其職責を挙ぐる能わずんば、当然其官職を褫奪せられて可なり。已往は兎も角も、将来の経綸に関しては陛下の御決断如何にあり。臣等奉骵敢て決行を辞せんや。

本使 
 国政の事、独り之を陛下の臣僚に責むべからず。君主其臣僚をして国務を責成するの権あると同時に、之を信任し之を親愛し又充分保護を与うる等の事なからざるべからず。夫れ之を為さずして君主濫りに臣僚に向て之を責むるは、酷に過ぐるの嫌なき能わず。陛下其れ之を諒せよ。

大君主
 誠に卿の言の如し。朕も充分親愛し相当の保護を与うべきは勿論なり。

本使 
 茲に一言致置度は、日清の交戦も御承知の如く我軍連戦連勝着々歩を進め、随て日本の威力も加わる今日に於て井上が公使として此国に来駐せし以来、内政改良を遂行せしめんとて強迫を以て君権を押え、且つ事の若し成就せざるに於ては終に其威力に訴うる如き手段を執るも未だ知るべからずとの疑惑心を、大君主始め大院君其他諸大臣に於て生ずる様のことありては、窃に恐る是れ我皇帝陛下の誠意に背き我政府并に全国民の企望と相反するものにして、貴国の前途亦甚だ歎ずべきものあり。此儀は予め御了解相成度し。

大君主
 従前の事は姑く措き、卿が貴国重要の地位にあるにも拘わらず、特に我国に派駐せらる貴国皇帝陛下始め貴政府の主意の存ずる所、朕已に業に之を諒悉す。安んぞ我上下一点の疑惑を此間に挟むの理あらんや。卿夫れ深く意とする勿れ。

公使 
 清国に属隷するの心を断ち、今後朝鮮国の独立を鞏固ならしむることを図るに於て、緊要の条項を逐一申述ぶべし。尤も、各条項は離れて単独なる者はなすべからず。第一は第二、第二は第三に、何れも皆全体に相関連する儀と御認め相成たし。又是より申述ぶる事に付ては、本使は強ち理屈がましき儀を敢て述ぶるに非ず。只斯くせられざればならぬと云うことに付申上ぐる儀なれば、其主意予め御認め相成置かれたし。又通弁に依り申上ぐことなれば、自然御了解相成難き儀も之れあるべくと存ぜらるゝに付ては、御分りなきことは一々御下問あらせられたし。又本日は各大臣御列席に付き、各大臣に於ても本使の申述ぶること一々御聞取り相成置かれたし。是又自然御分りなきこと、若くは御異見の廉もあらば此席にて充分承知致度く存ず。

 第一 政権は総べて一の源流より出づる事。
 是は政権が多門に出づると云うことは最も恐るべきことにて、此弊は漸々君主の権力を薄くし、必畢世道の如き者を顕わすに至るが故、是非とも一の本より政権の出づる様致さゞるべからず。即ち大君主は政権を統一せられ、凡百の号、今皆な大君主の親裁に出づべきは理の当然とする所。若し大君主の外、陰に陽に大君主と同等の政権を掌握するものあらんには、命令数途に出て号令一ならず。此の如くなるときは、廷臣何に頼で政を行うことを得べきか。有司百官各忠良に職を尽すに由なくして、凡百の弊害皆是より生ぜん。貴国にては是迄数人の君主ある有様なれば、此の弊は速に矯正せられざるべからず。彼の大院君は君主にてもあらせられず、亦臣下にてもあらせられず。故に決して国政上并に廷臣の進退黜陟等に口を入れらるべからず。大君主の御親政せらるゝこそ緊要と存ず。又王妃陛下も亦御同様たるべき儀に付ては、過般大院君并宮内大臣に迄申込み置きたれば、御聞取あらせられしならん。此事は是非御確守あらせられたし。此儀に付陛下の思召は如何あらせらるゝや 。

大君主
 尤もなる事なり。

公使 
 此儀に付各大臣の御考えは。


金宏集
 陛下に於て既に斯くせらるべしとの御意ある以上は、吾々に於て異存あるべきならず。
 各大臣何れも唯々。

公使 
 第二は、政務大君主が政務御親裁の権あると同時に、法令を守らるゝの義務あらせらるゝ事。
 是は第一と直ちに相関する事にて、大君主が御親裁せられし法に付ては大君主は其法を守り、其法に依り事を御処分せらるべき筈なり。但し法令と申すは別に定むる法令規則に従て制定公布せらるゝ者を云う。国政は大君主之を直接に各大臣に諮詢せられたる上、御裁可あらせられ、百事并に官吏の進退黜陟何れも只大君主の専横に御処分せられ御意志の侭にせらるべからず。専横と申すことは只大君主に於て、彼は宜しきに付此役に採用すべし、是は好ませられざるに付免官すべし抔と、別に各大臣に御諮詢せられずして直ちに裁断せられ進退せらるゝ事を云う。凡そ事に順序あり。然るに此の如きは弊の因て生ずる原因と存ぜらるゝが故、決してあるべからざることなり。又百官人民をして遵守せしむる為め、一たび法令規則を出さるゝときは、其法令の変更せられざる限りは臣庶は申に及ばず、各大臣、仮令え大君主たりとも擅に之れを破らるゝことは、甚だ理に於てあるべからず。故に大君主は法令を出され、其法令の範囲内に於て政を行わせらるべき者にて、即ち法令を御守り相成るべき者なり。此儀に付、大君主の思召は如何あらせらるゝや。

大君主
 文明諸国皆然りと聞及べり。予も又今後斯くすべし。

 各大臣何れも異議なく唯々。

公使
 第三、王室の事務を国政事務より分離する事。
 是は貴国従来の習慣に依るときは、人民の生命財産は王室の一命令の下に与奪せらるゝが故に、上君主より下人民の脳裡に迄、王室の外又国家なるものなしと思うが如き姿あり。王室と国政とを混合するの原因より生ずる弊害は甚だ大なり。承候内官等が国政或は官吏の進退に干与するの弊は宜しく速に廃止すべし。

 此時国王、承候とは何なるやを問わる。金宏集氏は直に、国王の左右に侍候する者ならんと答う。

公使 
 貴国官政に承候官なる者あるに非ずや。

金宏集
 承候官に非らず。承旨なる者ならん。承旨は王命を出入するを職とす。

大君主
 然らば承侯とは何なるか。

金宏集
 兎に角、政事に干与せざるべき者が干与すと云うは、好き事に非ずとの意ならん。但承候とは官職にあらずして国王に入待するものを云うならん。

公使 
 文字は兎に角、宮内官等にあらずして国政及び官吏の進退等に口を入れる者は弊害の本なれば、斯る者は廃止せざる可らず。此の如き弊は皆王室と国政とを混合するより生ずるの弊なり。王室の事務は宮内府之を司り、国政の事務は総理大臣各衙門大臣之を行い、宮中の官吏をして喙を国政に挟むことを得ざらしむべし。故に大君主は法令規則又は一定したる手続を離れ、猥りに各大臣并に国政に預る重職以外の者に向って国政上の事を御相談せられざる事、最も必要なり。此職に付陛下の思召は。

大君主
 尤もなり。
 各大臣何れも唯々。

公使 
 第四、王室の組織を定むる事。
 是は、王室の鞏固は国家の鞏固と相待って離る可らざる者、即王室の鞏固は国家の鞏固なり。故に王室に関する制度及組織を定むること必要なりと存ず。此事は王室制度なるものを御設け相成らば自然御明亮を得ん。此儀に付き陛下の思召は。

大君主
 尤もなり。
 各大臣唯々。

公使
 第五、議政府及各衙門の職務権限を定むること。
 是は、議政府は内閣にして各大臣参集君主御臨席あらせられ、国政を執らるゝ処、此議政府及各衙門の職務権限にて、職務権限とは外務衙門は外交のことを掌り、度支衙門は財政のことを掌ると云うが如し。仮令ば茲に海関税のことありとせば、税の事務は度支に関し、外国との事は外務に属する故に、衙門大臣協議の上、外務大臣が外国に交渉するの類を云う。即ち職務とは各衙門の取扱の事務を云い、権限とは何にの事項を委任せられ之を行うと云う義なり。

大君主
 内閣とは如何なるものなるや。

公使 
 内閣とは即国王御親臨あらせられ、各大臣を集めて国政を議せらるゝ処なり。君主が各大臣を集めて国政を議せらるゝより称する言辞なり。

大君主
 然らば宮中に設けざる可らず。内閣なる語は確か明の時代に始まりしものと覚ゆ。我国にても前には常参なるものありて、各判書及び大監[判書以上の官を経し者の称呼]を集めて国政を議せしことあり。宮中内殿にて集会の制にてありし。

 此時金宏集、魚允中氏、明時代に内閣の語の創まりしこと及常参のこと述ぶ。

公使 
 内閣なる語の明に始まりしと否とに関らず、兎に角、内閣は大君主御親臨ありて各大臣と事を議せらるゝ処を云う。凡そ世の創業に拘るときは、君主其重なる臣僚と事を議せられざる可らず。此場合には職務もなく権限もなかりしも臣僚を集めて事を議せらるゝことは是ありしならん。謂う処事を議せらるゝ所、即国王内閣なり。内閣と申上げて御分りなくば、即議政府と申すべし。議政府にて各大臣を集め君主御親臨あらせらるゝ事なり。而して各大臣の職務権限は之を定めざる可らず。

 此時金宏集、国王に向って職務権限なる語を説明す。

公使 
 右御定めに就ては、議政府及各衙門の組織及職務権限を定むる法令規則を制定せられざる可らず。只今申上たることは、学校にして政治学の講義をなすが如く、仲々六ヶ敷きことなれども、法令規則を御設け相成れば自然御明亮を得ることならんと存ず。此議に付陛下の思召は。

大君主
 至極尤もなり。そーすべし。
 各大臣何れも唯々。

公使 
 第六、租税其他一切の貢納等は度支衙門の統一に帰せしめ、人民に課する租税は一定の率を以てし、外に何等の名義方法に係らず、之を徴収すべからざる事。
 従来当国にては、租税を徴収するの公署は宮内其他に七、八ヶ処もありて、其収入は各自に之を支出せり。右の外、尚お春坊明礼宮よりは憑文を発して一種特別の徴収をなすことを得るの習慣なり。此の如く各処にて勝手に徴収し得るは、経済の基礎を紊乱し其弊を生じ易し。

 此時大君主、収税の類ならんと私語せらる。

公使 
 又、各処にて各自由に支出するは、第一王室と国政との費用の区別を混合し、第二に財政の統一を欠くものなれば、宜しく収入支出共に度支衙門の権限に属すせしむべし。右租税の外に官吏が私に収斂し、

 此時大君主、首肯せらる。

公使 
甚しきに至りては、其之を拒むものを恣まゝに監禁処罰するの弊ありて、

 此時大君主、頻りに首肯せらる。

公使 
人民各其業に安じ、福利を享有すること能わず。斯くては一国の富を致すこと能わず。人民をして各其業に安んぜしめんには、濫に人民財産を侵掠せざる様、一定の税則を定め、一に之に拠らしむべし。而して富国の基始めて立つことを得べし。

大君主
 我国にては以前各司何れの官衙にても各別に徴収せざる所なり。春坊明礼宮等今に止まらず。

公使 
 陛下は先きに弊害等はある可き筈なき旨、御意あらせられたるも、此の如きは即ち弊害の大なる者にして、陛下は御承知あらせられざるも知るべからずと雖も、本使は既に已に多くの弊害ある事を発見致せり。此事も即ち其一なり。斯る事は速に御一掃せらるべき事と存ず。此儀に付陛下の思召は。

大君主
 誠に公使の言の如し。
 各大臣一同唯々。

公使 
 第七、歳入歳出を計り財政の基礎を定め、王室并各衙門に要する費用の額を予定せらるゝ事。
 是は入を量りて出を制すと云うは何れの国にても皆然り。然るに貴国にては出を量りて入るを制すと云うが如き傾ありて、

 此時、金宏集、魚允中両氏、入を量り出を制すと云うを説明す。

公使 
支出に随い人民より徴収するが故、勢い不規律に且つ強牽等の事を生ぜざるを得ず。故に毎年の歳入を予定し、国家財政の基礎を定め、之により王室并各衙門等の経費額を一言せざるべからず。

 此時大君主、朴主事をして国政一班を持来らしめ切りに閲覧せらる。

公使
 即ち宮内府及び各衙門の経費は各衙門議政府等にて之を予算し、陛下の御裁可を経て確定する者なり。既に御裁可に相成りたる以上は、何人たりとも之を増減変更すること能わずして各大臣は其御裁可相成りたる定額にて一切の事を弁ずべき者なり。

 此時、金宏集氏、来年の分を本年に予算して定むべき者なることを言上す。

公使 
 又思うに貴国王室並に政府の官吏は事務の割合に比して過多に失す。此等は費用の節減上宜しく適当の員数を定め、冗員を淘汰せらるべし。

 此時金宏集氏
 事務を執らざる官吏は即ち冗員なり。新設官吏にも冗員甚だ多しとの事なり。
と言上し、

大君主は、
 成程冗員は省くべし。又地方官の如きも能く調べて少くする等の事を行わざるべからず
と述べらる。

公使 
 此事に付陛下の思召は。

大君主
 委細承知せり。
  各大臣一同唯々。

公使 
 第八、軍制を定むる事。
 是は、凡そ兵権は大君主に属し、一途に出ずるを要す。現今の如く之を多頭将帥の下に分属せしむ可からず。且つ軍備は国の基礎を立つるに欠くべからざるものなれば、少くとも内乱を鎮撫するに充分なる兵力を養うを必要とす。依て歳入歳出の予算を立て、節減し得る丈の費用を節減したる上、歳入の幾部分丈を軍備費に充るを得るやを算定せざるべからず。扨軍備の基礎を立てんには、先ず士官を養成するの途を開き、兵学の知識及び経験を有する者を将校に任用し、漸次軍備の拡張を期すべきなり。近時我士官が訓練せし教導中隊なる者あり。該中隊が東徒征討の為め出軍するに際し、本使は和城に於て其演習を一覧せしことあり。技芸は可なりに出来、申分なきも如何せん。之を統率する士官なし。元来戦争には兵学も必要なり。又測量等も必要なり。其他総て軍事上の知識は皆な士官に必要なるに、貴国にては毫も士官を養せられず。今若し此回清国との戦に付て之を云えば、清兵は一人として何れも強壮なりと雖ども、之を率うる士官は皆な兵を知らざる輩なり。平壌の戦の如きも、砲台等は可なり設けあるも、其将、軍略等を一切知らざるが為め、遂に一敗地に塗るゝに至れり。之れ将た其人を得ず。其技倆なきに依る。以て好証となすに足る故に士官の養成は最も必要なり。


 此時大君主、甚だ御解得の姿にて度々首肯せられ、尋で、
 我国にても古るき事なれども、日本より掘本なる者を聘し、士官の教育をなせしことあり。士官の教育は誠に述べらるゝが如し。
と述べらる。

公使 
 然れども歳入を度らずして徒らに軍備を拡張せんとするは財政を紊乱するのみなれば、鑑みざるべからず。

 此時大君主
 甚だ然り。財政を度らずしては到底なすべき者ならず。
と述べらる。

公使 
 又、未だ陸軍制度も立たざるに海軍などは元より無用ならん。海軍は他日陸軍の基礎を鞏固にしたる上、歳入の余裕あらば之を起すべきなり。

 此時大君主、首肯せらる。

公使 
 此議に付陛下の思召は。

大君主
至極尤もなり。
 各大臣一同唯々。

公使 
 第九、百事虚飾を去り、誇大の弊を矯むべき事。
 是は、虚飾と云うは奢侈若くは虚礼を崇び、外観を飾る等の事にて、貴国に於ては兎角此種の事多し。仮令えば回旋砲を購うて王宮に据え、電気器械を宮中に置かれし如きは不急の事なり。又右等は何れも買入れしのみにて其侭となり、何の役にも立たず。彼の典圜局(造幤局)の如きも、莫大の費用を要し、為す事何もなく、其他幾多の事業は何れも皆な此の如き有様にて、多分の費用を投じて一も功を奏せし者なし。之れ皆な虚飾と云うの外なし。又誇大と申すは事に付、一例を挙ぐれば、恐れ多きことなれども、嘗て世子宮が蒸汽を見られんとせられしと云うを以て、小蒸汽を宮中の園池に浮べられたりと云う。若し世子宮にて蒸汽舩を御一覧とならば、仁川に赴かれ外国軍艦なり御一覧相成るくれば事却て充分なるにわざわざ蒸汽を拽き上げて園池に浮かべらるゝと云うが如きは、誇大と申上ぐる外なし。世子宮と雖ども外出は更になく、徒らに深宮の裡にのみありて、外気に触るゝを務めて避けらるゝが如きは最も其養育上に不可なるあらん。

 此時国王は、
彼の蒸汽は日本より寄贈の者なり。既に他に持出せり」と述べられ、又世子を外出 さるす事に付ては我国の習いとして能わざるのみならず、警察の事も充分ならざる等の為めなり。何にも恐れて外出させぬと云う訳にもあらず。兎角我国の習いなればなり
と述べらる。

公使 
 いくらか御危険の事もあるべけれども、余り外気に触れしめられざるは、好き事とは存ぜず。我皇太子殿下の如きは御外出あらせらるゝも、扈従は纔か二、三人に過ぎず。又近頃は臣下子弟と共に華族学校にて御勉学あらせられ、然るに貴国にては、事甚だ異り、一切の事誇大ならざるはなし。斯くして世子宮を深宮の内にのみ置かせらるゝは恐れ多きことなれども、或は勢力の争奪又は猜疑離間復讐などと云う悪空気の内にのみ置かせらるゝと、一般にて終には斯ることの御学びありて、依って性となる事なしとも申されず。警しめざるからざることと存ぜられる。

 此時大君主は、
 日本太子の斯くある事は嘗て之を聞及べり。予も亦漸次世子をして然かせしむべし。又学問をも為しむる事とすべし。
と述べらる。

公使 
 現に李呵O氏の如きは王族の一人なり。王室の鞏固を計るに直接の関係を有せらるゝ御方なり。然るに兎角に尊大の弊に制せられ居れり。同氏は御歳も若かければ、此後充分学問せらるゝは最も必要の事なり。過般も数年間日本に赴かれ、留学せらるべきを御咄致したる事あり。斯くあるべき事と存ぜらる。
 凡そ百事王室より各衙門に至る迄誇大に構え、虚飾自ら得意とするは貴国の弊なり。之れが為め王室并に国政上に於ける冗費頗る多からん。此等の弊は速に矯正せられ且目下不必要の物品を購求し、並に前途維持の方法を攻究せずして不急の事業を起す等のことあるべからず。王室たるものは此際宜しく率先して諸事に節倹を勉め、以て冗費を除き臣民の模範を示さるべき事なり。

 此時大君主は、
 奢侈にして華廉を祟うと云うは最も驚くべきことなり。而して節倹を勉むると云うは甚だ必要なる事なり。公使の言は一々御尤もなり。是等の弊あるが為め人民に於ても兎角消し難き事となるなり。
と述べらる。

公使 
 本使の申すは人民の虚飾誇大を申すに非らず。王室内廷の事を申上ぐるなり。虚飾誇大にして冗費の多きが為め人民は実に疾苦に堪えざるが如き有様なるは歎すべきこと共なり。

 此時大君主には、
 民は国の本なりとの古語もあり。民をして苦しましむるは予の心外とす処なり。
と述べらる。

公使
 誠に陛下の御言葉の如し。民は国の本なり。民ありて国ありて而して王室あるは篤と御注意あらせられたし。故に右等の諸弊は須らく御一掃あらせらるべきことなり。此儀に付陛下の思召しは。

大君主
 一々尤もなり。
 各大臣一同唯々。

公使 
 扨手、本日は本使の意見を腹蔵なく逐一申述べたる上、陛下の御決心及び各大臣の御決心を伺わんと致せしに、事長くして時既に遷れり。陛下始め各大臣御一同定めて御憊れの事と存ぜらるゝに付ては、本日は是迄とし、他日引続き申上ぐる事と致さん。

大君主
 然らば他日再び聴くこととせん。

魚允中氏
 公使が只今迄言上せられたる文書に認められたる事は其侭陛下に御差上相成らんには又篤と御閲覧あらせらるべしと存ぜらる。

公使 
 本使は喜で差上ぐべし。決して差支なし。去れども逐条悉皆を申上げし上、陛下が斯くすべしとの御決心と各大臣の御決心を伺いたる上ならでは、此書差上ぐる事難し。何となれば本使の意見を採用あらせられざるに於ては此書も遂に徒労に属するやも知るべからざ(る)」が為めなり。又本書は日本仮名交じりなれば御閲覧も如何はしくと存ぜらる。旁た悉皆申上げし上御採用否及御決心否やを伺い、弥よ御採用あらせられ御実行あらせらるゝことと御決定の上は漢文に翻訳して差上ぐることと致したし。

大君主
 長時間に亘り定めて公使も憊れしならん。貴国皇帝及公使が我国の為め斯く力を尽くさるゝは誠に感謝の外なし。又自国の事を自国の者が処理すること能わずして斯く他の力を借ると云うことは誠に面目なき次第なり。

公使
 我皇帝始め我帝国一般の者は、熱心に貴国の為めに独立を計り、貴国の自主国たるの実を挙げんことを務め居れり。陛下が先刻も着々歩みくを進むべしとの御意は誠に左る事なれども、這は甚だ難事なり。難事なれども能く御決心の上、御実行あらるべしとならば出来ざる事なし。去れど中途にて阻喪する様の事ありては到底此事業を成就する事なかるべし。左れど難きに堪えられて此事業を成し遂げられには、陛下は実に貴国中興の大君主とならせらるべき儀と存ず。就ては本日申残したる箇条は何れも本日申述べたる箇条と相牽聯致し居れば、願くは至急に再び御引見降さるゝことと致されたし。何となれば時日を経るに従い自然義理の貫徹を欠くの虞りあるが故なり。

大君主
 然らば公使に於ても憊れ居るべければ、明後日としては如何。

 公使、宮内大臣李載冕氏に向い、
 本使は成るべく速ならんことを欲するが故、更に明日と御確定降さるゝ訳には相成り難きか。此儀然るべ(く)御取成を請う。

 李載冕氏右の趣を言上す。

国王 
 公使にして差支なくば明日も可なり。然らば明日午后二時よりと定め置くべし。

公使 
 然らば明日午後二時より再び参内可仕、本日は誠に長時間に亘り陛下に於かせられても定めて御憊の事と恐察せらる。是にて退去致べし。

 右にて一同退出、一応休憩室に至る。

 此同席上各大臣[洪法務大臣は後れて到る]及び李呵O氏参す。

 謁見中、国王御席の背及障子の隙間[一寸許]より王妃は時々国王に耳語せるゝを見る。

 陛下は御容顔麗わしく、始終微笑を浮べられ、公使言上の箇条一々御理解あらせられし体に見受けらる。

 席上李呵O氏二回席を離る。其都度公使、宮内大臣に勧めて席に付かしむ。
 休憩所にては各大臣何れも喜色あり。殊に金宏集、李載冕、魚允中の三氏を然りとす。

 

 

 

(朝鮮国王及諸大臣ニ内政改革ヲ勧告ノ件/19 第十五号 〔内政改革案奏上 1〕より文字強調、()は筆者)

第十五号

  明治廿七年十一月廿一日、前日に引続き謁見記事概要。

 午後二時、公使、各大臣、謁見室に進む。国王、世子宮、既に出御あり。


  公使、李載冕氏に向て、
 本日は李呵O氏には御列席なきや。

李載冕氏
 本日は入闕の日取りならず、又大君主より列席すべきの御命もなし。故に来らず。

公使 
 同氏は王族の御一人にもあれば御列席相成ることと致されたし。閣下より君主へ言上せられ列席の事、取計われたし。

 李載冕氏、此旨を言上す。

大君主
 然らば直ちに呼出すべし。

 李載冕氏、直ちに人を派す。

公使 
 昨日の例に依り各大臣の外、御退けを願いたし。

 此時国王及び世子宮に侍する内宦二人退席す。

公使 
 昨日は陛下の顔を犯し種々言上致せり。定めし不敬と覚召さるゝならん。尚お長時間に亘りたれば、陛下定めて御憊あらせられしならん。又各大臣も同様御憊れならんと想像す。

大君主
種々好き事のみを聴けり。決して耳に逆う様なことなし。是れ皆当に行うべきことなり。隔意あるべからず。

公使
 是より昨日申残したる箇条を言上致すべし。

 第十 刑律を制定する事。
 是は、刑法民法等の法律を制定するの必用にして、刑法とは主として悪事をなせし者を処分する法にて、民法とは動不動産人民互相の権利義務等に付き、人民相互の間、若くは政府に対し王室に対する貸借等のことを規定する法律を云う。先ず刑法は二百条乃至三百条にて事足るべしと雖ども、民法は千ヶ条余も要する者なり。故に民法の制定は大事業なれば、一朝になるべ者ならず。故に先ず第一着に旧律を改正するに、他国の刑法を参酌し、国情に適したる刑律を定むる事、差当り必用なり。去れど完全なる民法等を制定することは決して等閑に付すべきものならず。今や貴国人も亦外国に渡航することなれば、法律と云う事は最も注意を要すべきことなり。即ち現今の有様にて云えば、自国の人は外国に往き外国の法律に従わざるべからず。而して外国人が朝鮮にあるも朝鮮の法律にて支配すること出来ずして在留外国人は其外国の法律を以て支配することとなり居れり。是れ他なし、此国の法律が不完全なるが故外国人が此国の法律に支配せらるゝこと能わざるに因る。一体其国の法律は其国内にある人は外国人たると否とに拘わらず一切之れを支配すべきに、事茲に出ずして外国人は外国の法律に依り支配せらる。是れ即ち治外法権の害を生ぜり。故に刑法民法商法等の諸法律を時勢に適合する様、外国の法律をも参酌し制定せらるゝは他年治外法権を撤去せられ国体を保たるゝの基礎なれば、決して忽諸なるべからざる事なり。商法とは即ち商業上に関する一切の事を規定する法律なり。

大君主
 日本現今に治外法権回復中と聞く。已に悉く恢復せしや否。

公使 
 然り。近頃英国との間、条約改正となりて既に之を撤し又其他諸外国と交渉中なれば遠からずして皆之を撤去するに至るべし。是れ我国が鋭意以上の法律を制定せしに依る。貴国も亦之れを制定せられて他年治外法権を撤去せらるゝ事を御務めあらせられ、以て国体を保たせられざるべからず。然し之れは中々大事業なれば五年十年に成る訳にも参らざれば、漸次せらるゝ事とし、差当りの急務は刑律を制定せらるゝ事是なり。刑律を制定せられ人民を罰するに総て此刑律以外には仮令大君主と雖ども濫りに人民を監禁懲罰せらるゝが如きことは一切之を廃せられざるべからず。斯くして人民各其途に安ぜは、経国の基礎始めて立つなり。又裁判官の独立と云うことは裁判の公平を保つに最も必要なることなれば、漸次適当の人物を得るに従い、裁判官は行政官より分離して一の公署を設置せらるべし。

 第十一 警察権をして一途に出でしむる事。
 抑も警察は行政上并に司法上必要なるものにて、国家の行政機関に欠くべからざるものなり。就中其要務と云うは人民の生命財産を保護し、犯罪を捜査するの具にして宜しく一途に出でしめざるべからず。故に適当なる職権あるものゝ外、陰に陽に之を使用し又は其命令を受くることを得ず。現今の如く警務庁なるもの法務衙門の下にありて警察の職務を掌るの外に、巡捕一名則巡検なる一種異様のものあるべからず。是等は職務の権限を紊乱するの基なり。須らく廃止せざるべからず。警察の職務権限并に警察官の登用に関する規則は別に制定するを要す。

 此時国王、各大臣に向て、
 別巡検なる者ありや。予は嘗て之あるを聞かず、如何に。
 と述べらる。

内務大臣
 別巡検は巡検の下にありて使役に供せらる。現に臣が衙門にある別巡検の如きは巡検に使役せられ居れり。

大君主
 予は斯る事は毫も知らず。巡検と別巡検との二あるを聞かず。

公使 
 巡検を置き別巡検を置き、其弊害たる一途に出でざるに在り。今其弊害を云えば、現に金鶴羽が暗殺せられたるが如きは此者等の所行なりと云う。此の如くにして如何にして警察権を鞏固ならしむるを得んや。扨手警察権の行政上に必要なることを申述ぶべし。仮令えば茲に之を病の発生する事ありとせば其汚染蔓延を予防する為めには患者ある家に消毒法を行い、交通遮断をなし、家を掃除し患者の衣類を焼き捨てる等の事をもなさゞるべからず。是れ其病毒の蔓延し他に伝染せんことを恐れ予じめ之を防止するの手段なり。之れ即ち警察の権力を適当に用ゆるなり。又作物に害虫等の生ぜしときは他の田地に遷るを防ぐ為めには其作物を焼き捨つる等の事をなす。是等も亦警察の権力なり。又堤防に樹木を植付ければ自然潰決の恐あるが為め樹木を植付くるを禁ず。此等皆実に警察権なり。故に凡百の行政には一として警察の必要ならざるはなし。大君主陛下を始め各大臣とも警察の必要欠くべからざる者なることを御了解なるや。

大君主
 其必要なることは大概了解し居れり。日本にても警察の盛に行われ居ることを知る。
 各大臣唯々。

公使 
 然らば法務大臣に向て敢て問わん。警務庁は貴衙門に隷属すと云う。然るに巡検と別巡検との二つあるは其制の宜しきを得たる者と認めらるゝや。

法務大臣
 巡検は警務庁新設に依り出来し者なれば、譏察即ち盗賊の探偵捕縛等に不熟なる者共なるが故、依然捕庁のときより譏察の事に従事し居りし巡捕を其侭別巡検にして差当り譏察のことをなさしめ居るなり。

公使 
 貴大臣は本使が先刻より述べ居ることを御聞取りなされるや。謂う所譏察も亦警察の事務なり。然るに巡検と別巡検との二に区別せらるゝは何等の理由あるに依るや。

法務大臣
 警務のことは警務使ありて之れを主管す。故に余の関せざる所なり。委細は承知致さず。

公使
 極めて奇怪の御説なり。抑警務庁は貴衙門に隷属し監督の下に非らずや。然るに大臣が其事を知らずと云わるゝは果して如何なる理由なるや。本使は甚だ其意を解するを苦しむ。

法務大臣
 事創設に係り一切の事未だ定まらず、故に然り。漸次改むる事と致すべし。

公使 
 目下の最急務なるに漸次に改むるとは甚だ其意を得ざることなり。一日も速に弊事を除きて事務の整頓を期せざる可からず。

金宏集・魚允中氏
 是迄の事は是非なきことなり。是れより改むる事に致す可し。

公使
 陛下に於て本使の申上たることを御採用あらせらるゝとせば、本使は警察のこと目下第一の急務と思考するが故、一の希望を申上ぐべし。他に非らず今現に我政府より当地に派遣しある奏任官なる武久警使は本使が本邦にありて内務大臣たりしとき本邦警察が内務省に属するが故親しく同人を使いしことあり。同人は警察事務に通達致し居るのみならず、同人の脳力は貴国の為め充分警察制度を新定するを得べければ、同人に直ちに警務庁の顧問官に御聘用ありて速に警察制度を布かれたらんには宜しかるべしと存ず。尤も目下貴国財政困難の由なれば俸給等は今差当り定めざるも差支なきことなり。此儀陛下の覚召は。

大君主

 警務は最も急務なり。公使の言に従い顧問官に聘用すべし。
 此時大君主各大臣に向わせられ、左様すべしと命ぜられ各大臣唯々。

公使
 
 今直ちに聘用あらせられたしと申上ぐるに非らず。本使の意見を逐一申述べたる上、御採用相成り、弥よ御実行と御決定あらせられたる後の事と御承知ありたし。

  第十二 官吏の服務規律を立て之を厳行すべき事。
 是は、官吏たる者は宜しく其職務を尽くし、且つ清廉を守る可き筈なり。賄賂行われ苞苴公けなれば政事紊乱の基なり。宜しく鑑みざるべからず。官吏をして清廉ならしめんには各々相当の俸給を与え、之に頼て位地に相当なる衣食住に宛てしむべし。現今の如く地方の官職を鬻買し若くは請負的の者となす如きは速に改めざるべからず。地方官吏組織の改正は租税賦課法の改正と共に最も必要なり。此儀に付陛下の覚召は。

大君主
 尤もの事なり。斯くせざるべからざることなり。
 各大臣唯々。

公使 
 第十三 地方官の権力を限制して之を中央政府に収攬する事。
 是は、従来の慣例にて地方官は其管轄地内に於て兵権及び裁判権を有し、且つ中央政府に納むべき定税の外、苛税を随意徴収するを得。此等の弊は皆売官より来る者なり。地方官たるものが官職に就くには、皆巨額の金員を納めたるが故、就官後には人民より収斂するの結果を生ずるなり。[此時大君主微笑]売官の弊は改革のとき之を厳禁せしも尚お今後に此等の弊を生ぜざるが為め、厳重なる制を設くべきなり。右は過当の権力なるのみならず。従来之を恣に使用して人民の疾苦を来せしが故、宜しく適当の度合迄に之に(を)中央政府に収攬し、内務、度支等にて監督するの法を設定せらるべし。此事に付陛下の覚召は。

大君主
 夫等の弊は一切厳禁すべし。
 各大臣唯々。

公使
 第十四 官吏登用并に免黜の規則を設け、私意を以て之を進退すべからざる事。
 是は、賄賂苞苴の厳禁すべきと同時に官吏の登用并免黜の規則を設け、其進退黜陟総て公平ならざるべからず。官吏の進退に私を挟むは是自己一身のみ顧みて国家を顧みざるの弊を生ず。左れば大君主が大臣を進退するにも、大臣が所属官吏を黜陟するにも、私恩又は私怨を以て之を行うべからず。只其職務の適否を鑑み、規則に照らし公平を専一とし、苟も一点の私心あるべからず。此儀に付陛下の覚召は。

大君主
 いずれもそーせざるべからざる事なり。
 各大臣唯々。

公使 
 十五 勢力の争奪又は猜疑離間の悪弊を断じて之を止め、政治上に復讐的観念を抱くべからざる事。
 是は、国政は宜しく公明に之を処し、一点の私心を挟むべからず。勢力の争奪及政治上の復讐は皆私慾私怨より生じ、国家の紊乱亦是に基因す。故に今日より其念を断絶せざる可からず。本使が特に此一項を入れし者は事偶然に出でしに非らず。渡韓以来熟ら当地の模様を観察するに、某は大院君に出入せり。某は只管日本公使館に出入す。某は誰と誰は某と、互に斯る事を謂い合いて猜疑し、又難しい其処に出入するが故、何党なり何派なり抔と称して互に相離間し、而して其目的は互に勢力を争うに他ならず。目下の場合に当り斯くありては到底国政の挙るべき筈なし。此の如き観念は一切掃除せざるべからず。

大君主
 誠に然り。今後は何れも疑の字、又は党の字を全く捨てざるべからず。

公使 
 仰の通り、本使嘗て大院君又は李呵O氏に語りし事あり。或は日本党或は頑固党又は大院君党開化党抔と互に相呼て猜疑離間斯くして勢力を争うが如き有様にては、到底政事を行うこと能わざるが故、今の場合にありては各人とも何れも独立党と云う名の下に立ち、協力同心して国事に当り、万難を排除し国家を安きに置くを最も勇気を以て務めざるべからざる事なり。各大臣に於ては如何御考なるや。
 各大臣何れも唯々首肯。

公使 
 第十六 工務衙門は未だ必要を認めざる事。
 是は、工務上の事務は現今の有様にては一衙門として之を置く程の必要なからん。依て現今の工務衙門を農商衙門若くは他の衙門に合併しては如何。此儀に付各大臣御考は。

魚允中氏
 工務は成程公使の御説の如く只今の所にては差当りたる事務もなければ之に応ずるも可なり。去れど追々工務上の事務生ずべければ、存じ置く方可ならんと考う。

公使 
 財政の点は如何御考えなさるゝや。之れを一衙門とせば大臣も要し協弁も要し参議も要し、其他夫れ相応の吏員を要し費用をも要すべきなり。本使は何にも工務と云うことが全く不必要なりと云うに非らず。目下財政困難の際にもあれば、只衙門名ありて多分を費用する必要を見ずと云うの意なり。必畢農商務衙門なり他の衙門に合せて一局とし置くくかるれば事足れりと信ずるが故なり。事務もなきに一の衙門を設け置かるゝは誠に名実相伴うの儀に反せり。

魚允中 
 財政の点よりせば本大臣の如きは或は一二の衙門とするも可ならんと考え居れり。既に度支衙門の如きも官吏定員に充たざるも財政上の困難あるが為め、任命をも差扣え居る位の事なり。工務衙門の如きは御説の如く差当り事務もなければ之を置くの必要なきも諸事の緒に就くに従い漸次鉄路をも開通し、鉱山をも採掘するに至るべく、又電信の如きは既に其事務あり。又郵便の如きも往く往くは工務衙門に結び付けて開始すべき筈なれば今差当り同衙門を置くの必要きなも既に設けある者にもあり又行く行く事務の生ずべきことなれば何にも之れを廃するには及ばざるべしと考えらる。

公使 
 本使は此事に付第一に同意せらるゝは度支大臣ならんと思い居りしに、斯は余りに意外の事なり。只今の御説の如くんば未だ子を挙げざるに先ず名を付け置くと云うに異ならず。名実相反する事甚しからずや。

魚允中 
然り。然れども子と云う名は既にあり。

公使 
 工務と云うことを全く廃せんと云うに非ず。工務と云う名あるが為め工務衙門の名を付けざるべからずと云わるゝは、恰も子と云う名あるが為め未だ産れざる子に名を付くると云うが如し。此の如き名実相伴わざる事をなすは目下の急ならずと思うが故なり。工務は某衙門の一局とせば事充分なり。

金宏集、魚允中氏
 君前の事にもあり斯く争われざるも後にて各大臣協議の上兎も角も致すべし。

大君主、各大臣に向わせられ、
 農工衙門とせば字句は如何なるや、兎も角も各大臣協議すべし。

公使 
 然らば左様致すべし。本使が只今の争いの如きは是れ実に事国政に関するが故なり。此の如く君主の前をも憚らず相争う様にして国政を議せらるゝは最も然るべき事と考えらる。徒らに大君主の御震怒を恐れ御前にては只体よくのみ取計われ惟々是れ事とせらるゝは是れ臣下が国家に対し忠良を欠くと申すものなり。此くの如くにして国政の挙がるべき筈なし。本使は故に各大臣が今後国政上の事に付き充分御議論を尽され、時には争わるゝ迄議を尽されんことを望む

第十七 軍国機務処の組織権限を改むる事。
 是は、軍国機務処の権限稍や大に失するが故、今之れが組織を改定し法令は各衙門に於て之を立案し、大君主の御裁可を乞う前に軍国機務処に諮詢することに定め、軍国機務処自ら法令を立案することを得ざる様改められたし。[此時公使は立て官報を国王の卓上に差出され、機務処議案啓下に係る[開五百三年七月三日発兌官報 一 各府各衙門印章飭為鋳造扁亦額為新備事、一 啓査財政籌弁実施経用事外一項略す]とある一項を国王に示さる]此の如く現今機務処の権限は宏大に失し機務処にて法令を議決し、議政府及び各衙門をして執行せむるが如き有様となり居れり。此の如くんば後来機務処議員中に才幹ある者を生ぜんには機務処は或は議政府及び各衙門を凌駕し使役することとなるべし。是れ国政紊乱を致すの基なれば、今之を改め各衙門に於て立案せし者を機務処に与えて其可否を諮詢し、而して機務処可否の議を採用すると否との権は一に各衙門大臣にある事とせば甚だ宜しからん。

大君主
 日本の元老院の如くせば可ならん。議政府より権限の多きは悪しからん。公使の言に従うべし 。
 各大臣何れも異見なし。

公使 
 第十八 事務の必要に応じ、各衙門の事務に練熟したる顧問官を聘用すること。
 此事に付陛下の思召は。

 此時大君主、朴主事をして国政一班を持来らしめ切りに閲覧せらる。

公使
 即ち宮内府及び各衙門の経費は各衙門議政府等にて之を予算し、陛下の御裁可を経て確定する者なり。既に御裁可に相成りたる以上は、何人たりとも之を増減変更すること能わずして各大臣は其御裁可相成りたる定額にて一切の事を弁ずべき者なり。

大君主
 聘用する事とすべし。

各大臣
 以前既に聘用の事と定めある事なれば今更ら異議あるべき事ならず。
 と述ぶ。

公使 
 第十九 留学生を日本に派遣する事。
 是は顧問官聘用のことは一時にして久しくすべきことならざれば其間に於て是非人材を養成し、他日顧問官を要せざる様、予じめ準備を為し置かるべきなり。従来日本へ留学せし貴国学生も多かるべけれども、何れも自己の勝手に修業するが故に兎角事普ねからざるの観あり。今後の留学生は是非とも予じめ科目を定めて修業せしむる事と致されたし。

大君主
 此事は最も急務なり。直ちに派遣することとすべし。
  各大臣何れも唯々。

公使 
 本使が言上せんと欲するは以上の十九箇条なり。扨、陛下始め各大臣は本使が両日に亘て言上せしことを一々御実行あらるべきや。


大君主
 何れも宜き事なり。天下の大勢既に斯くなる以上は我国とても改革を実行せざるべからざるは固よりなり。

公使 
 之を口にするは易しと雖ども之を行うや実に難し。陛下が之を御実行あらせられんとならば、非常なる御困難に堪えらるゝとの御勇気御決心あらせられざるべからず。先第一に王室即ち大院君李呵O氏若くは外戚の御方々と国政上の御関係を断たるゝの御困難に堪えらるゝ御勇気御決心あらせられざるべからず。若し陛下に於て井上が来りて強て斯くせよと迫るが故、兎も角も行うこととすべしと云わるゝが如きことなれば、改革の大事業貴国独立の基礎を鞏固ならしむるの大事業は到底成就すること覚束なしと存ず。只一時の御決心にては只今着手するも又直ぐに幾多の弊害に遮ぎられ中途に蹉跌すべければ、寧ろ始めより着手せざるに如かざるべしと存ぜらる。然れども若し陛下が是非共断行せらるべしとの御決心にあらば、独立を鞏固ならしむるを得るのみならず、貴国中興の大事業を成し遂げらるゝ事疑うべきなし。識らず陛下の思召又は各大臣の御意見は。

 此時大君主の背後障子の隙間にありて王妃と覚しく切りに大君主に耳語せらる。

 大君主、各大臣に向わせられ、
 凡そ一事を挙げんとならば一事を取て直ちに之を行うべし。若し行われざるときは夫れまでなり。

金宏集
 行われざるときは即ち国の亡ぶるなり。是非行うべき事と存ず。

大君主
 公使の言、委細承知せり。之を行うに付ては困難もあるべけんとも左程心配するに及ばず。

 此時点燈す。

公使 
 斯く本使の言上する所一々御採用あらせらるゝ事とならば本使は尚お茲に一二申上ぐる事あり。即ち独立の基礎を鞏固にする為め内政改良をなし、清国との関係を断たるゝと云う国是の御変更を宗廟に誓われ、且つ全国に宣布せらるべき事(すなわち要項20箇条目)是なり。現今の有様に依るに貴国官吏の内にもさえ尚お国是のある所を知るものなく、況んや国民一般おや。故に斯く国是を御改め相成るに付ては是非之を宗廟に誓われ、之を国民に領布せられざるべからず。

大君主
 宗廟に誓うとは。

金宏集
 我国にて宗廟に告ぐる事なり。凡そ斯る大事に当りては我国の古例に依るも宗廟に告げ国中に公布せらるべき事なり。

大君主

 然らば斯くすべし。

公使
 
 今一ヶ条は六月廿四日陛下が大院君に降されし[御委任「伝曰凡庶務偶有緊重事件先為就明丁大院君」「伝曰各国事例其軍務皆帰親王管轄本国則海陸軍事務進明丁大院君前裁決」の二条を朗読す]此の如きものゝ存在するは御親政の儀と違うが故、此際右御取消しの御伝教を降さるゝは甚だ必要のことと存ず。

  此時大君主伝教の語に付先少しく躊躇せらる。

金宏集

 大院君は位尊き御方なれば直ちに御伝教と申すは同君の御面目に係る事もあらん。此事に付公使が斯く言上せられし趣を大院君に申上られば同君より御辞退あらせらるべきは必然なり。[此時李載冕氏も亦同様の事を述べらる]兎に角御委任を解かせらるゝ事とならば手続は如何にても宜しからん。

公使 
 左様なり。

大君主
 然らばそーすべし。

公使 
 政治上に付王族又は外戚の御容喙を断たせられ本使言上の各条一々御実行あらせらるゝは至難のことなり。能々御決心あらせらるべき儀なり。陛下が此の至難の事業を御成就あらせられ、独立の基礎を鞏固ならしめらるゝは、即ち貴国中興の大事業を成就せらるゝ儀にして実に貴国の為め非常の御幸福なるのみならず、我皇帝陛下の御叡慮も達せられ輦下に駐在する本使に於ても面目の至りに堪えず。尚お御再考を願う。

大君主
 天下の形勢此の如くなる以上は実行すべし。
 此時大君主各大臣に向わせられ実行を務むべき旨御下命、各大臣何れも唯々。

公使
 然らば両日に引続き言上せし次第を漢文に認め差上げん。右に付自然御分り相成らぞる廉もあらせらるれば何時にても御下命次第参内可仕又本使に於て言上致し度次第も有之は今後御引見を願出づることあるべし。

大君主
 予も用あらば招くべし。又公使に於ても用あらば何時にても来るべし。

公使 
 本日も亦長時間に亘り御憊れの事と存ず。退出致すべし。

大君主
 否予は毫も憊れず。公使こそ憊れしならん。

 是に於て公使退出。
 大君主各大臣に居残るべき旨御命令。宮内大臣、外務大臣のみ公使に随い退出休憩所に至る。

 

(「朝鮮国王及諸大臣ニ内政改革ヲ勧告ノ件/16 1894〔明治27〕年11月16日から明治27年11月24日」p6〜、()は筆者)

機密第二一七号 本一三二

 対韓政略に関しては先日暗号を以て大要通報申候。御承知相成候事と存申候。
 又手前便委細御報候通、王妃、大院君、李呵Oは、実に朝鮮内政改良の前途に横わる妨害物に候。此等妨害物の勢力を羈絆したる上ならでは、到底何等の改革に着手するも無益の儀に候間、本官赴任以来方一着に此等妨害物を箝制するの策略を取り大院君、李呵O等が一方で巧言令色我が媚を求め、同人等に意図陰謀ありと云うは全く讒者が日本に向い離間を試むるの策なれば信用を置かざらんことを願う、など甘言を以て我を欺き、一方には開化党の者を恐嚇し、日本に対する依頼心を絶たしめんとし、種々の手段を以て従来為せし謀略を掩蔽せんと障害を試みたるに干らず。
 彼等が為せし陰謀密計の事実を掌握することに着手し、大院君等が平壌にある清将に其内意を通ぜしめたる書柬は曩きに御送致相成、此事に国王より其密旨を通ぜしめたる書柬もあり、又李呵Oが部下に内命し、東学党扇動の為め其首領等に送りたる書柬も我手に入りたれば、此等の証拠物を以て表面よりは金宏集、金允植、魚允中に向い[十一月八日]貴官等は百事我日本に依頼するとて言を飾らるれども、此の証拠を見られよ、現に貴国が我国に向い東学党の鎮撫を請い、及び我国と同盟し、清兵を征討するの約を結ぶに干らず。此の如く国父として廷臣より尊敬せられ且つ畏怖せらるゝ大院君并に其孫等が陰に清将と共謀して東学党と相応じして我兵の駆逐を企つる如き有様にては、我帝国の厚意も是までなり。最早我国も朝鮮国を扶持し朝鮮の独立を助けんとするも無益なりと言いしに、彼等三人顔色を失いたり。
 又裏面には岡本柳之助を大院君の許に遣し、岡本の意を以て、同人が六月廿三日大院君が王宮に入ることに尽力せしも、皆信を大院君に措きしを以てなり。然るに公使より証拠物を示されて始めて大院君の陰謀を知りたり。啚らざりき斯くまでに同君及其愛孫等が我日本に向い不利の企謀あらんとは実に驚愕の外なし、斯くては我等も我国の敵たる同君等を助くるの途なし、と迫らしめたれば、彼等も茲に至りて其陰謀を隠蔽するの術なく、謝罪するの已むを得ざるの窮途に迫り、国王は金宏集を我公使館に遣し[十日]、謝罪の意を表し、大院君も公使館に来り、従来の罪を謝し、今後は政治に喙を容れざるべしと述べ、李呵Oも亦同様自ら公使館に来り、是迄の挙動に対し謝罪の意を陳述したり。

 委細は別紙談判筆記にて御承知相成度候。左れば大院君及李呵Oも最早其の暴戻詐獝を擅にし、政治上に容喙することなかるべしとは思考候え共、口と心とは常に相違して決して信用を置く能わざるは朝鮮人の常に候えば、敢て安心とは申難く候。

 次に大院君と同様内政改良の妨害物たるは王妃に御坐候。
 左れば大院君の暴戻を羈伴(絆)するも王妃の跋扈を制せざれば、畢竟暴を以て暴に代ゆるものにして、一を抑制して他の跋扈を助くるに過ぎず、依て毒を以て毒を制するの手段を取り、大院君をして国政に容喙する能わざらしむると同時に、宮闕内にありて、王妃を制御するの具に供し、併せて大院君をして失望の途に陥らさらしめざるの手段を取るべき積に御坐候。

 叉手、是等の妨害物を箝制し、内政改良の道を開きたる以上は、是迄反目敵視したる開化党、頑固党をして敵讐の念慮を去り、朝鮮独立の鞏固にする党となりて内政釐革の事に協心戮力せしむること必要なり。
 本官も[公使の資格にあらず顧問の資格を以て]去る廿日、廿一日の両日参内内謁見各大臣列席の上、別紙改革に関する要項二十ヶ条を奏上致し、採用するとの決答を取り候。委細は不日筆記にて御通報可致候。

 第一は落着したれども、是にて第二の内政改良こそ中に非常の難事に御坐候。数百年来習慣となりたる悪弊の根蔕は、中々一朝一夕にして之を革除する能わざること、元より当然の理には候え共、内政の改良に干しては官庁の職務権限及君主権等の事に説及すも、其文字の意味すらも理解する能わず。君主権と云えば恣に人民の生命財産を与奪するの権と■解し、此の如き専横なる権力は宜しく制限すべしと説けば、直に国会を開設し、諸事人民の承諾を要することと誤解するなど、其の蠢愚なる、実に意想外なり。

 胞裡只自己あるを知りて国家の何物たるを知らざる頑愚に向い、内政の改良などを説くは、宛も小学校の児童に向い、政治談をなすと一般なり。

 顧みて内政の有様を見れば、地方官は総て請負的営業にて地方官職は競争的に最高値を払いたるものに落札し[一例を聞けば、慶尚道監司の官は凡我金にして十万円位なり]、落札者は地方に赴任したる後、人民より苛税を収斂して曩きに官職に向い払いたる値を償還するの慣例なり。又租税及公用金等を徴集するを得る公署は七、八ヶ所もありて、之を統一するものなし。

 就中尤も奇怪なるは春坊[東宮職]及明礼宮[皇后宮職]は各徴収賦課の特許証を与うるのを得るの慣例あり。何人にても金を出すときは此特許証を得るなり。之を憑文と云う。此憑文を所持するものは、河川若しくは道路に於て自由に関を設け通過の貨物に課税することを得るなり。

 是れ単に一例を挙げたるに過ぎず、如此内政は百事乱麻の如く殆ど収検す可らざる有様に御坐候え共、之を整理して改良の緒に就かしむること非常の難事に御坐候。
 就ては第一王室の組織、行政機関の組織、権限等を制定すること必要に御坐候間、先日電報の通、山脇評定友若しくは中根書記官等の中一名、能文の官吏一名を随え至急出張御命じ相成度、又当国財政の有様は実に非常の窮乏に加うるに、平安、黄海の二道は日清戦争の為めに蹂躙せられ、全羅、忠清の二道及慶尚の半は東学党の掠奪に遇いたる上、猶朝鮮兵の為め掠略せられたる有様なれば、到底今年の租税を徴収するの見込なし。残る三道の内、江原道は山岳多くして原野少なく、咸鏡道の租税は従来俄境を守る兵備に充つるの例なり。此の如き情況にして本年朝鮮国の歳入は到底歳出と相償うこと能わざるや明かなり。左れば諸事冗費を節減し、十分の節約を務めたる上、猶不足あれば、我国より恵貸するの他なかるべし。右につき財政の現況を恢復せんには先ず当国毎年の歳入額を調査したる上、財政の整理を計画すること実に目下の須要に御坐候間、是又先日電報の通り収税の事務に熟練の高等官吏一名属官一両名を随え出張の儀、至急御取斗相成度候。此等の人物は目下朝鮮政府の顧問なれども未だ報酬を与えしむる積には無之候間、其辺は御含み相成■、在官の侭単に出張御命相成候様御坐候。乍併、内政改良の端緒相着候に従い、漸次に顧問として適当の人物入用に応じ、聘用の儀に可有之候。
小官出発前御話の鉄道并に秘密条約に関する書類■御送り無之候間早速御送可被致候。

  明治廿七年十一月廿四日
         特命全権公使伯井上馨
外務大臣子爵陸奥宗光殿

 

(「朝鮮国王及諸大臣ニ内政改革ヲ勧告ノ件/20 第拾六号 〔内政改革案奏上 2〕」より、()は筆者)

 十一月廿六日  公使参内謁見

公使 「本日内謁見を賜わるに付、先日奏上を経たる箇条を漢文に訳し携帯さんとするため多少時間に行違を生じ、金外務大臣は其れ故、未だ参内せられざるも宮内大臣の同意を得て特に入謁に及びたる次第なり[当国謁見の例、宮内外務両大臣の参席を要す故に奏すること然り]

大君主「其事は承知せり。是まで公使は数次我国の為め有益なる忠告をなし、大に満足に堪えず。今日は特に公使を清見して其厚意を謝し、併せて朕が旨を致さんと欲するなり」

公使 「過日は都合両日間長時間に渉る奏上をなし、定めて陛下にも御困憊を感ぜられたるならん」

大君主「否、朕は寧ろ其有益なる談話を好み、困憊を覚えず。却って公使の労を謝するなり」

公使 「本日奏言に先ち希くは陛下の左右は宮内大臣を除き其他は退出を命ぜられんことを望む」

 大君主、入待の内官に退出を命ぜらる。

公使 「未だ各衙門大臣の職務権限等制定せられざる前に於て、強て大臣に職務の挙がらざるを以て責めらるゝは不可なり。縦えば法律制度の如きも一ヶ月や二ヶ月間に忽ち制定せらる可きものにあらず。凡そ法は国の風俗習慣に適合せざる可らざれば、先ず以て貴国の習慣法律に泰西の法律を参酌し、而して其民度に相応の法律を編纂するの要あり。本使も顧問官の資格に於て貴国の旧法習慣を取調べ又必要に応じて他の顧問官をも招いて参同せしむる等、自ら其便法にもよるべし。而して諸法章成るの後、之を実施せば自然又不適当のことも可有之。然れども是等は逐次刪正を加え年所を経るに従って其完全を期する外なきなり」

大君主「然り。卿の言の如し。我習慣旧法に参ずるに泰西各国の良法を以てせば、極めて時勢に投合すべしと思わる・

公使 「過日も繰返し奏上致し置きたる如く、大君主の親政とは即当局大臣と一堂に相会し一定の手続に拠り、日程を定め毎日若しくは隔日に国政を諮詢せられ又は上奏し、従来の如く国王と各大臣との間に紹介吏を措き、大小の事之を経て一々送達才可を経ると云う如きことありては国政を親才せらるゝとの実と相反するものなり。只今参内の途中光化門を入り興礼門内に於て勤政殿との扁額を掲げたる大厦を目撃せり。惟うに此堂宇は従前国王親しく臣僚と会同して国務を執られたる場所と想像せらるゝなり」

大君主「我国も往昔定宗大王の時代は国王自ら便殿に出御し大臣判書大諫等の臣僚を命じ国政を議するの例なりし。然るに此例は何時しか廃せられて今日は全く其跡を止めざるに至れり。去れば朕は今此法を復興し、隔日に於て諸大臣を便殿に召集し、椅子を与え互に膝を交えて国政を談ずることに定むべし。[毎日会する程のことにも及ぶまじく]勤政殿云々のことは儀式上君臣相見るの場所にして毎年元旦冬至誕辰の三佳節に当り、国王大に儀仗を張り、之に臨んで百官の参賀を受くるるの例ありて、此席にありては何等の国政上の諮詢をなす例なし」

公使 「此に国政改良に関する十九箇条の漢訳文を呈するに当り、意味明晰を欠くか但しは質問を要せらるゝことあらば、何時にても後下問ありたし。又過日も奏上せし如く、本文は第一条は第二条と、第二条は第三条と云う如く、逐条相貫聯して密接の関係を有する儀なれども各条格別に御判断不相成様望置き度候。縦えば第一に於ては君主政権を収攬すとあるも、其以下の条目中、国政は各大臣に諮詢すとあるが如き類之れなり。扨以上の条目を採用して之を施行すべしとあるは甚だ善しと雖も之を云うは易くして之を行うは難し。前途幾多の盤根錯節を経て能く阻喪することなく、不撓不抜此の大難に克たざるを得ず。申さば官制改革の日は数多の冗費を淘汰せざる能わず。此等減省に遭いたるものは必ず其意不平を抱き或は離間策も行われ種々疑惑も生ずることならん。斯くの如き場合に臨んで、若し万一陛下の意之に堪ゆる能わずして阻喪せんか、竟に陛下中興の大業是れより挫折するに至るべし。凡そ事は中途にして阻喪する程弊多きものあらず。去れば成効の見込なき事業は寧ろ事前に止むの優れるに如かず。就中宗廟社稷に告ぐるに改革誓文を以てするが如きは、容易のことにあらずして大切なり。何となれば陛下の大業中途にして廃せられんか、是れ取りも直さず、上祖先の神霊を欺き、下信を国民に失い、又陛下自ら其心を欺き、引いて本使を欺かるゝに至る。本使は我皇帝陛下の誠意を奉体し来りて陛下中興の大業を翼賛するものなり。然して事此に至りては本使の力如何ともする能わず。内政改良の義挙も遂に挙らざるに至らん。果して斯くの如くなれば、本使も不得止欠望を齎らして本国に帰えり、事由を以て具に我皇帝陛下に復命するの外なきのみ。之れと同時に恐らく我政府の政略も一変して我日本は最早や厚意を尽す可き手段方法は罄(つ)きたりとて、全く反対の結果を顕すに至らん。又貴国の内部は如何んと云えば、内乱民擾簇発して外患を挑起し竟に又収拾す可らざるに至らん。豈深く鑑みざるべけんや。事未来に属し、辞意不遜に渉れども、本使率直の性、予め此に一言して陛下の猛省と再考とを煩す所以なり」

大君主「此際朕及朕が政府大臣も奮発一番して断然内政改良をなさゞる時は国家の前途知る可らず、又今日の侭にては所詮間に介立するの見込なきなり。朕が意已に決す。幾多の困難ありと雖、之を冒進せんと覚悟す。卿、新に来駐後屡次謁見奏上を経て朕が意大に貴政府の厚意を感ず。何故に已往に於て今日の如く釈然疑を解き事に改良に従事せざりしかを後悔するなり。せめて壬午年以来[十五年]上下一致国政の改良に熱中したらんには、今日は多少の進歩を見て貴国の称賛を受くるもこともありたらんに長嘆の他なし」

公使 「我第二軍は本月廿一日より旅順口を攻撃し同廿二日に於て之を占領せり。敵の大砲弾薬無数我手に帰す。抑も旅順口は彼の要塞にして其建築には一千万テール以上を費し西洋風の堅牢なるものなり。然るに僅々二日を出でず我軍の手裡に帰す。是を以てするも彼軍隊を用ゆるに足らざるを徴すべし。貴国人始め欧羅巴人も以為らく清国の広大なる、人口の夥多なる、到底日本の如き小国の兵力を以て能く之を征服し得べきにあらずして其の敗を取るや必せりと。今や始めて我兵力の侮る可らざるを知るに至りしならん。旅順敗報後北京政府は大に驚動し人心洶に或は遷都の儀ありと伝う。先是我国人以為らく必竟貴国問題の為めに一度清国と干戟を交ゆる日あるべしと。上政府より下人民に及ぶまで一に是を念頭に置かざるはなし。本使も内閣員の一として常に此念を抱けり。経営十数年間孜に兵備に怠りなかりしも、蓋し今日あらんことを逆観したるものにして敢て偶然の結果にあらず。特に此年我皇帝陛下は帝室費中三拾万円を割与し、製艦費中に加えられしむるが如きも又是を為せるなり。従来貴国は清国崇拝の俗、上国と呼び或は大国と呼び、甚しきは隷属に甘んじて顧みざるの状ありしも、今は已に彼国は頼み少き可憐の境遇に沈めり。果して然らば最早断念の他なかるべし。宜しく眼を東洋の全局に注ぎ進んで自家独立の基礎を鞏固ならしむるの策を講ぜざる可らず。我日本は終始貴国に対して無限の厚意を表彰しつつあるなり。貴国も亦我に依信して以て内政を整頓せらるゝことこそ得策ならん」

大君主「旅順口の勝之を能く甚だ爽快なり」

公使 「上の好む処下之より甚しきはなし。又君子の徳は風、小人の徳は草なり。草之に風を上うれば必ず偃すと。夫れ国政改良の事の如きも第一率先以て源流の■(氵+困)濁とも云うべき王宮内の虚礼陋習を革除し、積弊旧套を矯正して以て下流の清澄を期せざる可らず。扨て、宮内改革を断行せらるゝには即大院君は国父として陛下を輔けて宮中の改革に鞅掌せられ、宮内大臣は職務上之を決行せざる可らず。又中宮陛下は内部にありて只君徳をらるゝの他、苟も国政上に容喙せらるゝ如きことある可らず。如此して宮内の事情清浄潔白一点の遺憾なからんか、是が下風に立つもの靡然として向う所ほ一にし、諸般改良の事業日を追うて効果を奏するに至らん」

 此奏言中世子宮は暈気の気味ありとて席を立て入御せんとするの際、昏倒せられんとす。本使傍らより之を扶持し、宮内大臣を呼び内殿に扶掖して入らしむ。

公使 「陛下と廷臣との間柄は前屡々奏上せし如く互に愛情なくしては成らざるなり。縦えば君主上に居って威権臣僚を凌ぎ、君言と云えば何人も之に逆うことを許さず。去れば大臣も事の善悪に論なく、唯命のまゝ是れ従うと云うが如きことありては、国政上の弊害は到底免れ得べきにあらず。世に所謂明君と云い忠臣なるもの、善く廷臣の諫を容れ、廷臣亦諫を憚からざるを云う。之に反して君主は己の意に戻りたるが故忽ち之を退斥し己の意に阿諛するものを親愛すると云う如きことありとせば、之れ其の亡国たるを免れざるなり。君臣の義と云うも、愛情より来らざる可らず。此愛情は君臣の間互に密接せざるにあらざれば生ず可き様なし。本使望むらくは陛下能く臣僚の諫を入れ、之れと相親愛し、上下和衷以て内政改良の途に就かれたし」

大君主「卿の奏言の如く君臣の情分は尤親愛ならざる可らず。朕又意を此に注ぎ大小の事、廷臣に諮議すべし」

公使 「尚、日本始め泰西各国に於ける皇后王妃若しくは王族の勤務其他の行状に関して、詳細申述べたしと存ずれども、本日は日暮に及び且つ世子にも御不快に存ぜば更に他日謁見の日に譲るべし。尤も廿ヶ条は篤と御考を願う」

大君主「朕此に二十条目の訳漢文に就き一々熟閲を遂げたる後、不明了の廉もあらば次回謁見の時質問することゝせん。又た朕も申述べたきことあれども、是れ亦た次回に譲るべし」

 右にて退出を奏し帰館せり。