きままに歴史資料集  「明治開化期の日本と朝鮮(7)」補足資料

NHK歴史番組に見る捏造と歪曲

「NHK BS特集 世界から見たニッポン 明治編」
「西洋の驚きと警戒」から


 外交資料の一部を映像で見せながら、実際の資料とは違う趣旨でナレーション解説

 筆者が偶々見た番組の一部であるが、視聴者に対して、当時の明治政府の人間は「西洋のモノマネをしてはアジアの国に対して傲慢にふるまう愚かな人々だった」という印象付けに成功した、NHK独自のトンデモ近代史解説である。
 以下の番組内容は、日米修好通商条約の改正を目指して米国に向かった岩倉使節団が、米国側から全権委任状のないのを指摘され、慌てて伊藤博文らが帰国してそれを持って来たが、ついに条約は改正されなかったという話の続きの部分である。(写真は映像の一部)

ナレ「居留地の外国人商人たちは、岩倉使節団の動向に重大な関心を寄せていました。日本が今後どのような進路を進むかは商人たちの死活にかかわる問題だったからです。使節団の帰国を伝える記事の中に、注目すべき記述があります。」

映像「ジャパン・ウィークリー・メイル」

声「条約の改正は出来なかったが、使節団が重要な教訓を得たことを我々は疑わない。すなわち、これから後は、日本も西洋諸国がアジアで行っているのと同じやり方で利権を獲得していかなければならない、という教訓である」

ナレ「居留地の外国人は、日本外交の行く末を冷徹な目で分析していたのです。こうした分析を裏付ける行動を日本がとる時がやってきました」

映像「海面」 映像「雲揚号」

ナレ「明治8年、日本政府は軍艦を朝鮮半島に派遣します。この時朝鮮は東アジアでただ一国だけなおも鎖国を続けていました。その朝鮮を開国させるための交渉を日本は行っていたのです」

映像 「東京 外務省外交資料館」

ナレ「外務省外交資料館。ここに交渉の記録が残されています。

映像 「対韓政策関係雑纂 明治八年江華島事件」

ナレ「会談の冒頭、日本側が尋ねます」

映像 「日朝会談記録資料」

声 「我々は貴国と話し合うに当たり、全権を委任されている。あなたたちも当然同じでしょうな」

ナレ「朝鮮側が条約を調印するための全権の委任を受けているかどうかを問題としたのです。朝鮮側の答えは、」

声 「そちらは国外で交渉に当たるのだからそうかもしれませんが、私たちは首都の近くにいるので、その時々で連絡を取り合い処理すればよいことになっています。

ナレ「日本側は、」

声 「交渉に臨むあなたたちが全権を委任されていないのはおかしいではないですか」

映像 「日朝会談記録資料」

ナレ「それに対し朝鮮側は、」

声 「我が国では交渉の場に出向く者に、全権を与えることはありません。我が国は他の国と通商した経験もないため、国際的な外交のやり方をよく知らないのです」

映像 「日朝会談の想像錦絵」

ナレ「全権委任の意味を理解しない朝鮮に対して、日本は西洋諸国に習ったルールをもって臨みました。つい4年前にワシントンでのアメリカとの交渉でやられたことを、仕返したのです」

映像 「日朝修好条規」

ナレ「明治9年、日朝修好条規が締結されます。それはかつて日本が西洋諸国に結ばされた条約と同様の、不平等条約でした」

映像 「地球図」

ナレ「西洋のルールを適応して朝鮮を開国させた日本。その姿を世界はどう見たか。イギリス系の新聞は好意的に報じました」

映像 「ノース・チャイナ・ヘラルド」

声 「日本と朝鮮の間で結ばれた条約は、あらゆる点で申し分ないものと見做されるに違いない。日本政府は極東に存在する障害と将来の紛争の要因のひとつを取り除いた。日本政府は西洋の列強から祝福を受ける価値が充分にある」

映像 「地球図」

ナレ「一方、当時朝鮮を属国と見做していた中国は、」

映像 「申報」

ナレ「上海の新聞は次のような投書を掲載しました」

映像 「申報の投書記事」

声 「日本は本当に愚かなものだ。どうして何の理由もなく紛争を起こすことにしたのだろう。日本はいったい何をたよりにこんな軽挙妄動をするのだろうか。朝鮮と中国は、牛の角のように両側から日本を挟んで突き刺す。日本はなすすべもなく孤立し、あっという間に殲滅されてしまうに違いない」

映像 「地球図」

ナレ「西洋のルールをもって振舞い始めた日本は、ほかのアジア諸国との摩擦を生じ始めたのです」

 順を追って問題点を説明しよう。まず、

ナレ 「居留地の外国人商人たちは、岩倉使節団の動向に重大な関心を寄せていました。日本が今後どのような進路を進むかは商人たちの死活にかかわる問題だったからです。使節団の帰国を伝える記事の中に、注目すべき記述があります。」

映像 [ジャパン・ウィークリー・メイルの記事]

声  「条約の改正は出来なかったが、使節団が重要な教訓を得たことを我々は疑わない。すなわち、これから後は、日本も西洋諸国がアジアで行っているのと同じやり方で利権を獲得していかなければならない、という教訓である」

 とある。つまりは、「日本も西洋諸国のような方法で利権を獲得するということを教訓として学んだ」はずだ、という視聴者への誘導である。
 そしてこの誘導から次のナレーションで断定となる。

ナレ 「居留地の外国人は、日本外交の行く末を冷徹な目で分析していたのです。こうした分析を裏付ける行動を日本がとる時がやってきました」

 と、「こうした分析を裏付ける行動を日本がとる」と、西洋諸国の方法を日本が実行したと断定し、

映像 [海面、そして雲揚号]

ナレ 「明治8年、日本政府は軍艦を朝鮮半島に派遣します。この時朝鮮は東アジアでただ一国だけなおも鎖国を続けていました。その朝鮮を開国させるための交渉を日本は行っていたのです」

 と、雲揚号の写真とともに、「軍艦を朝鮮半島に派遣します」という言葉によって、西洋諸国の方法、つまりは「黒船で脅迫」したということをも想起させている。
 そして史実は、旧交のあった日本が明治新政府となったことの通知文の受け取りを朝鮮に求めていただけなのであるが、それを「鎖国を続ける朝鮮を開国させるための交渉」と歪曲し、つまりは暗に武力で開国を迫ったことを表現

 次に、全権委任状のことを中心に話を進めるために、以下のようなストーリーを創作している。
 番組のその部分から音声部分を抜粋する。

ナレ 「外務省外交資料館。ここに交渉の記録が残されています。
ナレ 「会談の冒頭、日本側が尋ねます」
声  「我々は貴国と話し合うに当たり、全権を委任されている。あなたたちも当然同じでしょうな」
ナレ 「朝鮮側が条約を調印するための全権の委任を受けているかどうかを問題としたのです。朝鮮側の答えは、」
声  「そちらは国外で交渉に当たるのだからそうかもしれませんが、私たちは首都の近くにいるので、その時々で連絡を取り合い処理すればよいことになっています。
ナレ 「日本側は、」
声  「交渉に臨むあなたたちが全権を委任されていないのはおかしいではないですか」
ナレ「それに対し朝鮮側は、」
声  「我が国では交渉の場に出向く者に、全権を与えることはありません。我が国は他の国と通商した経験もないため、国際的な外交のやり方をよく知らないのです」
ナレ 「全権委任の意味を理解しない朝鮮に対して、日本は西洋諸国に習ったルールをもって臨みました。つい4年前にワシントンでのアメリカとの交渉でやられたことを、仕返したのです」

 

会談冒頭で話されたものは

 まず、会談冒頭で全権委任のことを尋ねたとあるが、実際はそうではない。
 映像に資料が出ているが、その該当資料を最初から読めば分かるように、先ず、黒田全権の護衛兵士の溺死事故のことが触れられ、次に、日本から派遣された黒田たちの使命の意味の陳述から始まる。

大臣 「我皇帝陛下、両国三百年の旧交を敦うするの意を以て、貴国接待の大臣へ細に晤談いたすべしと鄭重に命ぜられたり」

 日本が皇政維新して明治新政府となったことの通知を、朝鮮政府が受け取りを拒否して既に8年。いったい朝鮮は日本と絶交するのか、それとも公的国交を修めるのか、という最も重要な課題である。これが日朝両国8年間の懸案であった。
つまりは、両国最大の問題を単刀直入に冒頭から述べたのである。

 日本側が先ず述べたこの一文を現代語訳すると次のようになる。

黒田大臣 「我国の皇帝陛下は、両国三百年間の旧交を厚くする意向で朝鮮の大臣と細かに会談するようにと、鄭重に命じられた」と。

 これに対して朝鮮大臣は次のように答えた。

 「両国三百年来の交誼、誠に廃す可らざるなり。今、更に旧交を敦うするの言を承け、殊に感謝に堪えず」
 つまり、
申大臣 「両国三百年間の親しい交わりは誠に廃すべきではない。今、更に旧交を厚くするの言葉を受けて、とりわけ感謝に堪えない」と。

 すなわち、三百年来の旧交を保ち、更に交際を厚くする、という両国の方針の明確な合致であった。
 このように先ず、両国交際を緊密にすることを会談冒頭に於いて確認したのであった。

 つまりはこれが日朝会談としての冒頭となる。

 では、次に全権委任の問題? いやいや、当然次はその交際の障害となっている問題の解決に向けての会談となる。即ち、書契受け取り拒否の問題と雲揚号への砲撃事件(江華島事件)のことである。
 これまた該当資料を読めば分かるように、日本側、朝鮮側、双方が意見を述べることが続き、一段落したところで、ようやく「全権」のことが出てくる。
 以下、資料該当部分とその現代語訳、更にはこのNHKの番組でのその部分を並べてみた。

大臣 「我等は貴国と使事を議するの全権を委付せられたり。貴大臣も亦然るや」
黒田大臣「我々は貴国と協議をする全権を委任された。貴大臣もまたそうであろうか」
NHK「我々は貴国と話し合うに当たり、全権を委任されている。あなたたちも当然同じでしょうな

 NHKが言うように「当然」とか「でしょうな」などという言葉はない。実際は単純な問いかけの言葉に過ぎない。

  「貴大臣は他国へ出使の事なれば左もあるべし。我国に於ては使を他国に遣るときは格別、今般は近京の地に在て接待すれば、時々稟報を経て公幹を主理すべし」
申大臣「貴大臣は他国へ出ての使なのでそうだろう。我が国では使いを他国に派遣するときは別であるが、今度は首都の近くでの応接なので、時々に政府との連絡を経て処理することになる」
NHK「そちらは国外で交渉に当たるのだからそうかもしれませんが、私たちは首都の近くにいるので、その時々で連絡を取り合い処理すればよいことになっています」

 NHKは番組のこの章の部分では、「『全権』などの西洋式外交を朝鮮が無知であったことをよいことに、日本がそれを相手側に突きつけ、またやりかえした」という意図を以って構成している。それに対して都合の悪い部分である「我が国では使いを他国に派遣するときは別であるが、今度は」という部分、つまりは、朝鮮は他国に使臣を派遣するときは何らかの権限をもたせることもあるが、という意味の部分を削除している。実は朝鮮政府は以前から「全権」のことはよく知っており、ただここではその方式をとらなかったということである。

 そして、会談は次のように続いていく。

大臣 「乍然、幾許か御委任の権限あるべし」
黒田大臣「しかしながら、いくらかは御委任の権限はあるであろう」
NHK「(なし)」

  「貴大臣を接待すべきの命を奉じたれども、貴大臣の議する所、何等の事に及ぶか計り難し。故に未だ其界限を定め得ず」
申大臣「貴大臣を接待せよとの命を受けたが、貴大臣の議するところが、どのような事に及ぶかは予想し難いことである。それゆえに、まだその権限のことを定めていない」
NHK「(なし)」

大臣 「然れども両国交際の事務を商議するに当て、条を遂て区分せば必ず貴大臣の専対し得べきと否ざるとの別あらん」
黒田大臣「しかし両国交際の事務を協議するに当たっては、条文に分けてするので、必ず貴大臣が専ら協議出来ることと、そうでないことの区別があるだろう」
NHK「(なし)」

  「我輩の派出せしは唯貴大臣を接待するの命を受けしのみなれば、談判の事件により京師に報じ、処分を仰ぐは今日の職分なり」
申大臣「我輩が派遣されたのは、ただ貴大臣を接待する命令を受けただけなので、談判の内容によっては政府に報告し、その処分を仰ぐのが今日の自分の職分である」
NHK「(なし)」

大臣 「初め釜山より貴国の秉権大臣に面商すべきを報知せり。然るに今貴大臣出接して委任の権なしと云うは心得難し」
黒田大臣「最初に釜山から、貴国の権限を持つ大臣と協議することを報知していた。それなのに今貴大臣はここに出てきて委任による権限がないというのは納得できない」
NHK「交渉に臨むあなたたちが全権を委任されていないのはおかしいではないですか」

 この会談に於いて日本側は、両国交際の障害となっている事件を協議した上で解決し、条約文も定めるという重要課題を担って来ている。当然、相手方も「秉権大臣」つまりは政府から何らかの権限を委任された大臣でなければ、ここでの協議が困難となる。それで予め釜山草梁公館にいる日本外交官から朝鮮側にそのことを伝えていたはずであると。それを、朝鮮大臣は接待するだけの職分で出て来た、と言っているのをいぶかしんだ黒田大臣が、それでは納得できないと言っているのである。つまりは、協議の実務上のことを確認する問答に過ぎない。それらのことを理解出来る文章をNHKはなぜか省略し、まるで日本側が全権委任のことで相手をやり込めているかのような印象を持たせる構成としている。黒田大臣よりも、NHKの番組構成の方が全権委任問題にこだわったために、結果として歪曲された会話内容となった。

 続いて番組では、

ナレ「それに対し朝鮮側は、」
声  「我が国では交渉の場に出向く者に、全権を与えることはありません。我が国は他の国と通商した経験もないため、国際的な外交のやり方をよく知らないのです」

 と述べたとしている。

 だがこれ、「我が国では交渉の場に出向く者に、全権を与えることはありません」は前のものに続く言葉なのだが、次の「我が国は他の国と通商した経験もないため、国際的な外交のやり方をよく知らないのです」は、翌日の第2回会談に於いての言葉なのである。

 会話の続きを、記録現代語訳NHKで並べてみる。傍線の部分は実際はここではなかった言葉である。

  「我国に於ては使臣に付するに全権を以てする事なし。此地は京城を距る遠からざれば、御談判の件により奉報すると否とを区別し、時々相商すべし」
申大臣「我が国では使臣に全権を与えることはしない。この地は京城から遠くないので、御談判の件により、報告するものとそうでないのとを区別し、時々で協議するとする」
NHK「我が国では交渉の場に出向く者に、全権を与えることはありません。我が国は他の国と通商した経験もないため、国際的な外交のやり方をよく知らないのです(以下なし)」

副大臣「向きに貴大臣云う、従前両国情意の疎隔する甚だ憫忙すと。是れ貴朝廷の意なるや将た貴大臣の意なるや」
井上副大臣「先ほど貴大臣が言うのに、従前は両国の情意が疎隔したのには甚だ心痛すると。これは貴朝廷の意見なのか、または貴大臣の意見なのか」

  「満廷の君臣皆憫忙す。然れども(以下略)」
申大臣「政府全ての君臣共に皆が心痛している。しかし・・・」

 協議の方法を申大臣が述べたことに対して、井上副大臣が話題を転じた。つまりは朝鮮側の協議方法を一応は受け入れたのであり、これ以降、このことを求める話はこの日は出てこない。
 ところが、NHKの番組ではこの全権問答を強調したかったのか、次回第2回会談の次の会話部分を続きに持ってきている。

 NHKが取り上げた部分を傍線で示し、会話の流れを知るために前文となる部分も共に示すが、ここでは、前回で触れた条約案のことの話となり、日本側はこれを議定し調印するための権限ある人を求めるという実務上の話も出るが、重要な部分は条約案そのものについてである。

第2回会談 2月12日の一部

大臣 「従来、両国情意洽からざるの憂を除かんが為め、此条約を結び、互にツ印交換して永遠遵守の証とするは、即ち我が皇帝陛下、本大臣を派せらるゝの趣旨なり。此儀の御決答は予め期を剋せざる可からざれば、議政の中にても全権を有したる大臣、来接せらるゝか、又は貴大臣更に委任を受らるゝか、何れにもせよ、条約を議立しツ印の運になる丈の大臣に引合申す可し」
黒田大臣「従来の両国の情意がゆきわたらない憂いを除くために、この条約を結び、互に調印交換して永遠に遵守する証とするは、すなわち我が国の皇帝陛下が本大臣を派遣された趣意である。このことの御決答は前もって期日を定めておかねばならないことなので、政府の中でも全権を有した大臣が来て応対されるか、または貴大臣が委任を受けられるか、何れにせよ、条約を議定して調印の運びになるだけの大臣に引き合わさせられたい」

  「承知せり。我等は貴国旧好を継ぐの意は万事旧格に遵い取計わんと心得居しに、此条約書案を拝見すれば新規の箇条多く、我等の専決を為し難ければ、先ず大意を京師に奏し、然る後、此条約書案を差出す順序に相成べく、我国の例格にては縦令領議政来り接すとも独断は出来不申、日を期して決答するは出来申すまじ」
申大臣「承知した。我々が貴国との旧交を継ぐ意は、すべて今までの慣例によって取り計らられるものと思っていたが、この条約案を見ると新規に設けた箇条が多く、我々が専決は出来ないので、まずは大意を政府に奏し、その後に、この条約案の書を差出すという順序になるかと。我が国の慣例ではたとえここに領議政(総理大臣のようなもの)が来ても独断は出来ないだろう。日にちを期して決答することは出来ないだろう」

大臣 「従前、宗氏の慣用し来りし例は、彼我条約を結びたるに非ず。決して永遠相安んずるの道に無之、今斯条約は天地の公道に基づき万国普通の例に依り取調たる者なり。況んや隣国の交に於ては尤も欠く可からざる緊要の事たり。若し京師へ奏問の上、条約を結ぶを肯んぜざるときは、即ち貴朝廷旧好を継ぐの意なきなり」
黒田大臣「従来の宗氏との慣例は相互で条約を結んだのではない。決して永遠安心の道というものではない。今のこの条約は天地の公道(国際法)に基づき、万国が一般としている例により整えたものである。言うまでもなく隣国の交わりに於いては最も欠かしてはならない重要なものである。もし政府に諮ったうえで条約を結ぶことを承諾しないなら、つまりは貴朝廷は旧交を継ぐ意思がないのである」

  「我国は従来貴国との交あるのみ。外国へ通商したる事なき故、万国交際の法も不案内なり。今、愚見を以てすれば、朝鮮は至って貧国にて、物産とて僅に棉及び牛皮なれば処々に開港いたすも、夫程の益あるまじ。乍然此は私見なり。兎に角京師に奏聞の上は可否の確答あるべし」
申大臣「我が国は従来から貴国との交際があるだけである。外国に通商したことがないので、万国交際の法も不案内である。いま考えてみるのに、朝鮮は至って貧しい国で物産とても僅かに綿および牛皮などであり、処々に開港してもそれ程の利益はないであろう。しかしながらこれは私見である。とにかく朝廷に奏聞した上は可否の確答があるだろう」

大臣 「貴朝廷の御決答を待つべし(以下略)」
黒田大臣「貴朝廷の御決答を待とう・・・・」

 このように、第2回会談での発言のこの部分は、黒田大臣の、日朝間で新たに条約を結ぶか否かの問いに対する、申大臣の一応の返答の挨拶であって、「とにかく朝廷から返答があるだろう」と言っているのであり、話題は国際法に基づく条約についてのことなのである。
 全権委任の問題とはほとんど関係ないのだが。
 しかも、「外国に通商したことがない」の外国とは、その手前の「我が国は従来から貴国との交際があるだけである」という言葉からも、日本以外の国ということになる。実際日本と朝鮮は昔から釜山居留地で交易をしているのだから。しかしNHKが言う話の流れでは、その「他の国」つまりは「外国」には、まるで日本も含まれるかのような印象となる。NHKが全権問答に拘ったために、またも歪められた部分である。

 そして、続く番組のナレーションでは、
「全権委任の意味を理解しない朝鮮に対して、日本は西洋諸国に習ったルールをもって臨みました。つい4年前にワシントンでのアメリカとの交渉でやられたことを仕返したのです」とある。

 そもそも、当時の朝鮮政府は全権委任の意味を理解していないのではない。先に黒田大臣一行を出迎えた接待使はすでにそのことに触れている。NHKが番組でわざわざ画面に出した黒田大臣派遣関連の外交資料を通して読めば分ることである。どうやら、資料をきちんと読まずに空想で歴史を語るのがNHKのスタンスらしい。(笑)
 また、ここで朝鮮政府が全権委任の方式を執らなかったのは、地理的にも京城に近いことと、当時の政府が皆で色々と議論を尽くさないと何ひとつ決定できないという慣習による。

 で、その次の、「つい4年前にワシントンでのアメリカとの交渉でやられたことを仕返したのです」という言葉。

 普通、「仕返す」とは、やられた相手にやり返すことを「仕返す」と言うのである。米国にやられたことを朝鮮に仕返す、では筋違いも甚だしい。明治政府が実際にそのようなことをしたとしたら実にナンセンスなことである。そして番組のこの部分を聞いた視聴者のほとんどの人が、一応に吹きだしたり、あざ笑うのがこの部分である。
 しかし、当時の明治政府が、全権委任の問題で、米国にやられたことを朝鮮に仕返した、などというのは既に述べたように、史実にはないものである。まったくNHKによる捏造でしかない。
 そもそも、日本人は、こういう発想や、このような表現をしないものである。「斜め上を行く」ような発想であり、視聴者に当時の「日本政府のやりかた」に対して嘲笑を誘うような、悪意あるナレーションと言わざるを得ない。(番組製作者の中にキムチの匂いがする、とまでは敢えて言わないが(笑))

 そもそも、この黒田全権派遣の一連の会談記録の全体では、全権委任のことなどは実に瑣末な問答の一節に過ぎない。
 そんなことよりも、この日朝協議においてもっともっと重大な、雲揚号への砲撃事件(江華島事件)の事や、日本からの明治新政府となったことの通知状の受け取り拒否(書契問題)の解決など、積年の日朝間の問題解決に向けて互いに議論し駆け引きし、ついに「日朝修好条規(江華島条約)」という近代条約を締結するに至った経緯を知ることが出来る、この貴重なる記録資料全体を読むならば、日本の公共放送局の番組として採り上げねばならない、明治初期の日朝交際の近代史の重要テーマが別にあったはずである。
 この番組を企画し監修した人々は、おそらく、この外交資料をまともに読むこともしなかったのだろう。せっかくの貴重な資料を、NHKは、現代の人々をして明治政府への嘲笑を誘うかのような演出をし、この資料を、ただ明治の時代を誹謗中傷するための材料としたに過ぎない。まったく、この番組製作者の視点の低さと悪意には、失望するほかはない。

 また、もし敢えて全権委任のことをテーマに取り上げるとするなら、その合理性にこそ触れねばならない。つまりは、問題を協議解決する方法として、政府内で議論に明け暮れて徒らに日時を費やし、いっこうに協議がはかどらないような、また、交渉双方の表情がよく見えず、その真意が伝わりにくいような、例えばかつての幕府が、またここでの朝鮮政府がとったような方式よりも、政府から使命を帯びて協議課題と政府意向をよく把握し、政府代表として全権を委任された個人が、直接交渉して協議を整えたほうが、遥かに合理的なことは論を俟たないことであろう。日本はその合理性を選択したのである。

  西洋から学んだことを実行にうつす日本、という図式で、外交もまたそうだったと説明したい番組の意図は理解できないことはない。しかし例えがこのようなものでは、ただの捏造歪曲番組としか写らないものである。

 それに、日朝間の外交はそう単純に捉えることは出来ない。そもそも、このことについてのヒントをNHK自身が映像で見せているではないか。第2回会談での申大臣の発言部分「我国は従来貴国との交あるのみ」と。
 つまりは、日本とは全く交際のなかった米国とは違い、日朝間はすでに交際300年の関係があるのであって、それをNHKが以降のナレーションで縷々述べるように、はたして、
本当に日本が武力外交を真似たのかどうか。
朝鮮を「開国」をさせたのかどうか。
「不平等」という言葉で括ることが出来るような条約であったのかどうか。

ということである。
 これに対する答はもちろん、「ノー」である。
 例えば、番組では『ナレ「西洋のルールを適応して朝鮮を開国させた日本。・・・」』とあるが、朝鮮がここで開国した事実はない。
 朝鮮は日本と旧交を修めただけであり、これ以降も旧交ある日本と清国以外の国に対しては、朝鮮は鎖国政策を執り続けている。それを開国させて、最初に米国と条約を結ばせたのは清国の主導によるものである。それは明治15年(1882)5月のことであり、朝鮮が中国の属国であることを西洋国に認めさせるための画策であった。朝鮮はそれ以降、西洋各国と条約を結んでいくことになる。
 わざわざ外交資料を画面に映しているのだから、NHKの製作者や監修者が、続けて資料をよく読んでいけば分ることである。

 番組が意図することがいかにも正しいかのように、適当に歴史資料の一部分を引用し、しかもそれを画面で見せて視聴者に信憑性を感じさせ、それでいて通常の視聴者には分からないところで、捏造し、歪曲して解説する。
 いやはやNHKもまた、日本の近代史の事実を正確に把握しようとするよりも、最初からレッテルを貼って適当に修飾を加える曲学の徒なのかと。

 「歴史」という、その事跡を資料によってしか窺うことのできないものを、このように意図的に歪曲したり捏造して構成するスタンスは、歴史を語る者としては、かなり悪質であると言わざるを得ない。筆者にとって、この一連の番組に対する信憑性は全く消失してしまった。わざわざyoutubeにアップされているが、その価値はない。いやむしろ有害である。

 以上。

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